新説! 桃太郎伝説

三田村優希

ある意味こんな桃太郎は嫌だ

 昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。


 その日もおじいさんは山へ真っ白な柴犬とともに柴刈りへ。おばあさんは川へ洗濯に行きました。


 おじいさんが一生懸命に柴木を刈っていると、柴犬は興奮した様子で

「ここ掘れワンワン!」

 状態で掘っていきます。すると、地面から大判小判がザックザク……って、違う話になるやないか! 


 ――などというセルフ突っ込みはさておき、順調におじいさんは作業をこなしていきます。柴犬もおじいさんに怒られたらしく、不貞腐れてどこかに行ってしまいました。


 大地を掘るのは、犬の習性です。趣味です。掘った穴に向けて

「ブラジルの皆さん、聞こえますかーッ?!」

 くらいのことをやって欲しかった柴犬は、使えねーじーさんだと見切りを付け、放浪の旅に出てしまいました。……その顔がちょっぴりワイルドになっていたことを、おじいさんは知る由もありません。


 一方おばあさんは川でせっせと洗濯です。最近、年のせいか二人ともトイレが近く、特に小用が間に合わないことも多くなりました。二人暮らしだというのに、洗濯の量は結構あります。


「あらやだよ、おじいさんったらふんどしにシミを……って、これキスマークじゃないか! キーッどこで浮気してんだ、あの唐変木! そっちがその気なら、アタシもちょいとひと花咲かそうかしらね」


 白い褌に付いた紅。愛人の匂わせ行為マウンティングに、おばあさんのこめかみに血管がビキビキと。夫婦関係にヒビが入った模様です。しかし、おばあさんは何食わぬ顔で亭主を手のひらの上で転がしつつ動かぬ証拠集めをするのです。男がいくらしらばっくれようと、女の観察眼は鋭くあっさりと嘘を看破するものです。


 おばあさんがひとりエキサイトしていると、上流から大きな桃がどんぶらこーどんぶらこーと流れてくるではありませんか。どうやっておじいさんの寝首を掻いてやろうかと思案しているおばあさんは、その桃の存在に全く気付きませんでした。


 やがて桃はおばあさんの前を、あっさり通り過ぎてしまいました。おばあさんの脳裏には、おじいさんを血祭りにあげている妄想で一杯です。桃はおばあさんに気付かれぬまま、2メートルほど流されていきました。


 するとどうでしょう。桃は自力でその場に留まると、鮭のように川を遡上そじょうしてくるではありませんか! 小刻みに左右に揺れながら、川を遡る桃。軽くホラーです。おばあさんが見たら、興奮して血圧が上がっているのでショック死確定です。ある意味、目撃していなくて幸運でした。


 桃はおばあさんの前まで戻ると、存在をアピールするかのように、その場で飛び跳ねました。ばっしゃん、ばっしゃんと水飛沫をあげ、全力で

『ここでーす、ここ! ここにいるよー!』

 と、チアリーディングばりの華麗なジャンプ。トビウオも真っ青です。ここに熊がいたら、鮭と間違えて迷いなく咥えることでしょう。


 ただ垂直にジャンプすることに飽きたのか3回転半トリプルアクセルも加えてみましたが、おばあさんは相変わらずスプラッターな妄想にとりつかれて、気付いていません。桃は諦めずに海老反りジャンプもしてみましたが、バランスを崩してひっくり返りかけるも華麗に一回転して着水しました。


 そこでようやくおばあさんは桃の存在に気付きました。流れてきた当初の桃は、若干熟れていなかったのですが、目一杯運動をしたせいか、いまは食べ頃の赤い色をしています。


「おやおや、なんて大きな桃なんだい。よし、これをおじいさんの最後の晩餐にしてやろうじゃないか」


 おじいさん、生命の危機です。


 おばあさんは嬉しそうに桃を拾い上げ、家へと帰っていきました。ちょうどそこへおじいさんも帰ってきました。可愛がっていた白柴犬がいないことに気づいたおばあさんは、

「おじいさん、あの子はどうしたんだい?」

 と尋ねました。


「知らない間にどこかへ行ってしまった」


 だったら探さんかい! とまたもやこめかみがビキビキとなりましたが、おばあさんは桃の存在を思い出し、これを食べさせたら探しに行こうと思い直しました。


おばあさんはまな板と……包丁では小さすぎたので鉈を持ってきました。ちょうど中心あたりに鉈を添え、いざ振り下ろそうとした刹那、気のせいか桃がわずかに動きました。それに気づかずおばあさんは、おじいさんに対する浮気疑惑の不満をぶつけるかのように

「きええええええええい!!」

 と気合一閃。見事に真っ二つに割れました。


 すると種の代わりに赤子がいるではありませんか! どう見てもゼロ歳児なのにおばあさんの顔を見るなり、威勢よく怒鳴りつけるではありませんか。


「やいババア! いきなり切りつけるたぁ俺様を殺す気か!」


 しかしおばあさんは昔、ちょっと名の知れたお転婆ヤンキーでしたので

「ほおおん、アンタ生意気にもアタシに意見するってぇのかい?」

 昔を彷彿とさせる鋭い眼光に、さすがの赤子もビビり散らかしております。


 一時は離縁どころか惨劇の危機だった老夫婦の絆を取り戻したのは、この摩訶不思議な赤子でした。桃から誕生したので、桃太郎と名付けられた男の子は実によく食べ寝て、甘やかされたのでワガママな俺様に育ちました。


 通常の3倍の速さで成長していく桃太郎。あの桃は3人で美味しくいただいたのですが、桃太郎だけ成長促進が3倍だったのです。人工的に成長促進剤でも注入されていたのでしょうか。


そんなこんなで、外見年齢は15歳に達した(実質5歳)桃太郎は、最近ちまたを騒がせている鬼の話を耳にしました。そして決意するのです。


英雄a u王に俺はなる!」


 と厨二病全開で、おじいさんおばあさんに宣言するのでした。大飯食らいのワガママ坊主に手を焼いていた2人は、桃太郎を厄介払いできると喜び、送り出すことを決意したのです。





 おじいさんからは先祖伝来の太刀を、おばあさんからは薄い鉄板入りの羽織ときび団子を贈られ、桃太郎は意気揚々と鬼退治へ出かけました。しかし、いくら桃太郎でも一人では心許なく、お供を連れていこうと思いつきました。


「へい、そこの粋な桃模様の羽織を着たにーちゃん、オレを連れて行かないか? オレ様の牙は、鬼なんざ平気で噛み砕いてやるよ」


 桃太郎の前に現れたのは、真っ白な柴犬でした。ワイルドな雰囲気をまとっており、強そうです。すんすんと桃太郎の匂いを嗅ぐと、柴犬は何かに気付いたように距離を取り唸り出しました。


「やいおまえ! あのじーさんの匂いがするじゃないか! オレを追い出したじーさんの匂いがよ!」


 そうです。この白い柴犬は、おじいさんに追い出されたあの犬だったのです。この5年間どこを放浪していたのか、すっかりやさぐれた顔つきになっていましたが、憎きおじいさんの匂いは覚えていたようです。ですが可愛がってくれたおばあさんの匂いも感じ取り、懐かしさで桃太郎に噛み付けません。


 とりあえず、動物には餌付けが一番と知っている桃太郎は

「きび団子をやるから、鬼退治に行かないか? いや、お供しろ」

 と、チョー上から目線で言い放ちました。


「はぁ? 鬼退治っていう男が命を賭ける戦場いくさばの報酬が、きび団子ひとつだぁ? 舐めてんのかお前。わんチ○ールよこせよ。無理なら百歩譲ってジャーキーか、かしたサツマイモだな。オレ様を雇いたきゃ、そんぐらい寄越せや」


 おばあさんに可愛がられていたときの素直さ、無邪気さはどこへやら。5年間の放浪生活で野良犬の野性味が増し、桃太郎と同格の俺様に変貌していました。しかしそこは桃太郎。伊達に桃から生まれていません。問答無用で肉体言語パワハラによって、服従と忠誠心を植え付けてしまったのです。


 こうして、最初のお供が(半ば強制的に)導かれました。


 柴犬とともに歩いていると、柿の木の上から猿が降りてきました。何を思ったのか猿は、柴犬めがけて柿を投げつけてくるではありませんか。犬猿の仲とはよく言ったもので、因縁を付けられた柴犬は

「上等だ、このエテ公がぁぁ!」

 とエキサイト。猿は真っ赤なお尻をボリボリ掻きながら、樹上へ逃げる始末。


「やーいやーい、ここまでおいでー」


 柿をもいでは、地上の犬とついでに桃太郎に投げつけてきます。柴犬は何とか木に登ろうとしますが、彼の肉球では滑って登れません。桃太郎は、投げられる柿を避けていましたが、やがて

「大概にせぇよ、猿」

 と呟くと、おもむろに柿の木を蹴りつけました。


 大きく揺れる柿の木。そんなに太くない幹は桃太郎の蹴りによって大きく揺れ、猿は必死に枝にしがみつきます。どうやら虚仮こけにされたことで、桃太郎のヤンキー魂に火を付けてしまったようです。


 怯えてしまった猿は細い枝へ逃げ、ブルブル震えているところを桃太郎の太刀によって枝を切り落とされ、地面に落ちてしましまいます。桃太郎と柴犬へ、伝家の宝刀ジャパニーズ・DO・GE・ZAで詫びを入れた猿は、桃太郎ときび団子で親子の固め盃を交わしました。柴犬とも兄弟分の固め盃を柿で交わし、桃太郎のお供は2匹に増えました。


 柴犬と猿をお供に歩いていると、草むらからきじが現れ、翼を広げて立ち塞がりました。


「わたしは、この日ノ本の国の国鳥、雉です。わたしのくちばしは鋭く、空中戦を得意としています。さあ、きび団子で我慢してあげますから、お寄越しなさい。仲間になって差し上げましょう」


 腰が低いのか居丈高なのか。翼を広げている雉は確かに大きく威圧的で、空中から鬼を攻撃するのは有効手段と考えました。


「判った。きび団子でいいんだな?」

「ええ。それで仲間になってあげましょう」


 相変わらずの言い草にイラッとした桃太郎は、腰袋からきび団子をひとつ取り出すと、大きく振りかぶって全力で投げました。


「うおおぉぉりゃああぁぁぁ! 取ってこーい!」


 条件反射的に柴犬も走り出しかけましたが、あれはボールではなくきび団子だと思い出し、すんでの所で踏みとどまります。犬の習性を利用して、忠誠心を再確認したのかと勘違いしましたが、雉はロケットスピードで飛んでいきます。早いです。世界最速の男ウサイン・ボルトもかくやとばかりに。あっという間に追いつき、誇らしげに戻ってきた雉は、こうしてお供の一員になりました。


 きび団子をのどに詰まらせかけ、慌てふためいている雉を見てほくそ笑む桃太郎。それを橫目で見て、この人には逆らうまい……と心に決める、柴犬と猿でした。


 




 桃太郎の一行は漁村で船を手に入れ、鬼たちが住むという鬼ヶ島を目指して漕ぎ出しました。島影は見えるので、すぐにでもたどり着けそうです。


「雉、お前は飛んでいけ。重量オーバーだ」

「わたしが戦いの前に疲れ果てても良いとおっしゃるのか、桃太郎どのは。重量オーバーとおっしゃるが、桃太郎どのの薄い鉄板入りの羽織が原因ではないか?」

「……焼き鳥にされたくなかったら、今すぐ飛べ」


 雉は慌てて翼を広げると空に舞い上がり、先行するように飛んでいきます。柴犬と猿は

(やっぱりこの人に逆らわない方がいい)

 と、ガクブルしながら大人しくしています。賢明な判断です。


「ところで桃太郎の親父、船を漕いだことあるんですかい?」


 親子盃を交わした猿が、を握った桃太郎の背中に向けて尋ねました。人間である桃太郎以外、櫓を漕ぐことはできないので、ひとりと2匹の運命は一蓮托生です。はじめて空を飛べる雉を羨ましく思った、猿と柴犬です。


「任せろ猿。俺は桃の中にいたとき、自分で桃をコントロールして川下りしてきた。海なんてへっちゃらよ」


 確かに赤子ながら、川を自力で遡上した化け物でした。しかし海は寄せて返す変則的な動きをします。桃太郎は無事に鬼ヶ島へたどり着けるのでしょうか。


「いざ進め! 無事に鬼どもを退治した後は、おねーちゃんたちと、きゃっきゃうふふして、モテモテのハーレム作ってやるぜ!」


 ……ヒーローらしからぬ下種ゲスな妄想を堂々と口にして、桃太郎は意気揚々と漕ぎ出しました。


「うおおぉぉりゃああぁぁぁ!」


 かけ声は勇ましいのですが、波に流され鬼ヶ島になかなかたどり着けません。


「ちょ、親父! 流されてる流されてる!」


 猿が慌てふためきますが、波は船を翻弄します。くるくると、まるで悪代官に帯を解かれて回る町娘のように回転し前に進みません。桃太郎も同じ事を連想したのか、怒りで顔を紅くすると吠えました。


「回るのはおねーちゃんで、俺じゃねぇ! この桃太郎さまを舐めるなよ。おい猿、お前も後ろから押せ」

「えぇっ!? お、おいらもですか?」

「ここは海だ。言うこと聞かないと、あとで蟹をけしかけるぞ」


 若気の至りで蟹を虐めてしまい、臼や蜂に散々懲らしめられた過去を持つ猿は

「蟹こわい……臼と蜂も怖い。でも桃太郎の親父は、もっと怖い」

 と涙目になりつつ、大人しく海に入るとバタ足で船を押し出し始めました。


 その甲斐あって船はようやくまっすぐ進み始め、鬼ヶ島の海岸へ無事にたどり着くことができました。


「こっちの方から鬼たちの匂いがする。でも、お酒臭い。じーさんが、おばあさんに隠れてこっそり呑んでいたから、僕、知っているんだ」


 おばあさんが知ったら血の雨が降りそうな情報をさらっと提供した柴犬は、桃太郎を見上げます。いくぶん、以前の可愛らしさを取り戻したようです。


「向こうに洞穴ほらあながありましたよ。おそらく、そこが鬼どもの住処すみかかと。わたし、偉いでしょう? ちゃんと偵察してきましたよ。さぁ、褒め称えてもよろしいですよ」


 雉の言い草にイラッときた桃太郎は、腰に手挟たばさんでいた扇で雉をはたき落とします。


 わ、わたしは国鳥なのに……と恨み節をぶつける雉に、

「羽根むしって、海に放り投げるぞ」

 冷酷無比な桃太郎の台詞がトドメをさします。


 あんまりな扱いですが、雉はそれでも

(口惜しい……! でも感じちゃう……)

 ビクンビクンと、なにか危ないMのスイッチが入ったようです。


 「よし、お前らよく聞け。犬の情報で鬼どもは酒を飲んでいるようだ。だったら、少人数で特攻しても勝てる。雉が奴らのアジトをを見つけた。すぐさまカチコミかけるぞ。先手必勝だ!」


 桃太郎は太刀を引き抜き、先陣を切って洞穴に駆け込みます。他の2匹と1羽も遅れまいと突入します。柴犬の鼻は正確で、鬼たちはお酒を飲んでベロンベロンに酔っていました。


 桃太郎たちの奇襲に為す術もなくやられていきます。雉の嘴で突かれ、猿に引っかかれ、柴犬に噛みつかれと散々です。首領らしき鬼が土下座して謝ります。


「もう二度と悪いことしませんから、勘弁してください」

「じゃあ、お前たちが奪ってきた宝を全部寄越せ。それで手打ちにしてやる」


 お供たちは思いました。

(鬼たちよりも、この人が一番の悪党やないか)

 と。


「せめて少しだけでも残してください。あっしらも生きていくのに必要ですから」

「お前らは負けただろう? 負けたからには、お前の宝は俺のもの、俺のものは俺のものだ」


 見事なジャイ○ニズムが発動しました。これにより、お供たちに財宝の分け前がないことも確定しました。


 こうして桃太郎はたくさんの財宝を持って帰り、柴犬はおばあさんと再会することができました。猿は更生し、立派な群れのボスとなりました。雉は優しいつがいと一緒になり、二度と桃太郎をはじめ人間に関わるまいと、以後はひっそりと暮らしました。


 めでたしめでたし。




                 おしまい。

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新説! 桃太郎伝説 三田村優希 @mitamurayuki

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