第十一章(最終章):正義の行方

村の宴は夜遅くまで続いていました。


金銀を手に入れた事に、村人たちは歓喜し、

酒を酌み交わしながら、桃太郎を称え続けていました。


ところが、その輪の中にいたはずの桃太郎の姿は、

いつの間にか消えていました。


彼は、そっと村を出て、一人、家へと向かっていました。



桃太郎は静かに自宅の戸を開けました。


「おぉ、帰ってきた!よくやったな、桃太郎!」

家の中で待っていたおじいさんが、

満面の笑みで駆け寄り、桃太郎の肩を力強く握りました。

「本当に、ケガ一つなくてよかった……!」

おばあさんは、そっと桃太郎の手を握り、

目を潤ませながら安堵の息をつきました。


桃太郎は腰に下げていた袋を解き、金銀を取り出しながら言いました。

「これ……お二人に…」


袋いっぱいに詰まった金銀を目にして、

おじいさんとおばあさんは驚きの声を上げました。

「こ、こんなに……!?」

「桃太郎、本当にありがとう……!これで生活が楽になるよ!」


二人は感激し、金銀を撫でながら、大きな笑顔を浮かべました。


桃太郎は、二人の喜ぶ姿を見て、少しだけ心が軽くなった気がしました。



——とにかく、自分が大切だと思う人は幸せになったんだ…

「……よかった。」

そう小さく呟きました。




夜の静けさの中、桃太郎は一人、縁側に腰掛け考え続けていました。


——金銀は、鬼にとっては「命」だった。

——だが、人間にとっては「財宝」だった。


もし自分が鬼の立場だったなら、人間こそが「悪」であっただろう。

村では、自分は「英雄」と称されている。

それはただの、勝者の論理に過ぎないのではないか——?


桃太郎はそっと目を閉じました。


小鬼の涙、冷たくなった鬼の姿、

村人たちの歓喜、そして目の前で微笑むおじいさんとおばあさん。


どれも、偽りではない現実。


「……俺は……俺がした事はなんだったのか……」


桃太郎は、そっと金銀を握りしめましたが、

それが温かいのか、冷たいのか——

もう、桃太郎には分からなくなっていました。



~おしまい~





最後までお読みいただき、ありがとうございました。

「桃太郎~正義の果てに~」は、ただの勧善懲悪では終わらない物語としました。

読んでくださったあなたの心に、何か一つでも残るものがあれば幸いです。


そして次回、舞台は地上から天へ――

「ジャックと豆の木~空の三宝~」 をお届けします。


天まで伸びる豆の木、雲の上の巨人。

ですが、これはただの冒険譚ではありません。


空に隠された三つの宝が、少年ジャックと、私達の運命を変えてゆく――

どうぞご期待ください。




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桃太郎~正義の果てに~ 山下ともこ @cyapel

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