大食いクイーンの転移ギャル、江戸の町で巨大スイカのバケモノを食い尽くす

安珠あんこ

大食いクイーンの転移ギャル、江戸の町で巨大スイカのバケモノを食い尽くす

「え? ここどこ? てか、何が起きた――?」


 目を開けた瞬間、広がっていたのは、瓦屋根と木造の建物が並ぶ、見たこともないレトロな町並み。しかも、通りを歩いてる人たち、みんな着物ってどういうこと? まるでテレビで観た時代劇の世界じゃん!


◇◇◇


 ギャルになって五年、そしてテレビの人気大食い番組で三連覇中の大食いクイーンこと、蒼井ルリカは、番組の収録帰りに謎のスイカスムージーを飲んだあと、意識を失い、気がつくと異世界──いや、まるで江戸時代のような古い町の中にいた。


「え、どういうこと? 街がいきなりど田舎になってるんだけど……」

 

 ルリカは自分のほっぺたをギュッとつねってみる。


「いったぁ! ってことは、これは夢じゃなくて現実か。でも、それじゃあ、一体ここはどこなんだ?」


 足元を見れば、アスファルトの道路がいつの間にか砂利道に。辺りの建物はぜんぶ木造、車もコンビニも見当たらない。


「これってもしかして、幻覚かぁ? まさかとは思うけど、あのスムージーになんか怪しい成分とかが入ってたとか?」

 

 ルリカはバッグからスマホを取り出す。しかし──。


「は? 圏外になってんじゃん! ありえないんだけど! まったく、どんだけ田舎なんだよここは。ま、グダグダ言ってても仕方ないし、少し歩いて周りを見てくるか……」


 スマホをバッグにしまったルリカは、しばらく周辺を探索することにした。


 町の建物は古いが、人間はそこそこいるようで、賑わっている。――しかし、何かがおかしい。


「これ、着物だよね? なんか、みんな江戸時代みたいな格好してるなあ。私、江戸のテーマパークにでも瞬間移動しちゃったのかな?」


 そう言って歩き出したルリカだったが、周囲の人々からの好奇の視線を感じる。彼女の金髪と露出度の高いギャルファッションは、この時代では明らかに浮いていたからだ。


「ねぇ、見てあの人……」


「派手な衣装を着て、まるでかぶき者じゃあ……」


「ちょっと、じろじろ見ないでくれない? それに、見た目で人を判断するの、やめてよね!」


 ルリカが町の人々に抗議したちょうどその時──。


「きゃあああああっ!」


 遠くから、女の人の悲鳴が響いた。


「何が起きたの!? とりあえず、助けないと!」


 気がつくとルリカは、悲鳴の聞こえた方へと走り出していた。現場に着くと、そこにはなんと──。


「何だあれは? スイカ? いや、スイカの化物だ!」


 町の外れでは、巨大なスイカの化物が若い女性を襲っていた。今、ルリカの目の前にいるのは、どう見ても異常なサイズの巨大スイカだ。スイカの化物は身体中から触手のようにつるを伸ばし、女性の全身に巻きつけて拘束している。そして化物の口からは、スイカの種がまるでマシンガンのように高速で飛び出していた。


「ひいいい、種はやめてぇーっ!」


 女性はスイカの種を身体中にぶつけられて、悲鳴をあげている。


「大丈夫か? 今、助けるからな!」


 ルリカはバッグから果物ナイフを取り出すと、あっという間に女性に絡みついた蔓を切り落とした。


「ギャアアアアア!」


 怒り狂ったスイカのモンスターが、ルリカに襲いかかる。


「遅い!」


 軽やかに横にステップして攻撃を回避したルリカは、すかさず果物ナイフを構え、スイカの化物の表面をナイフで突き刺した。何度も果物ナイフで突かれたスイカのモンスターは、やがて動かなくなった。


「助けていただき、本当にありがとうございます。あれは、【スイカの祟り神】なんです」


 助けた女性から詳しい状況を聞いたルリカは、この町のすぐ近くにある【鬼ヶ淵村】に原因があることを知る。


「鬼ヶ淵村……? 鬼と関係があるのか? 何かいわくがありそうな名前だなあ」


 なんでも、昔その村で祀っていた【スイカの神】の祭りをサボったせいで、神様がブチ切れて祟り神となったらしい。


「なるほどねえ。因習村のスイカの神様が恨みを募らせて、あんな化物になったってわけか。ま、そういうことなら、私に任せてよ」


 スイカの祟り神を倒すために、草むらを超えて蔓に覆われた因習の村へと乗り込んだルリカ。村の奥深くに佇む神社の前で、ひときわ巨大なスイカの化物が立ちはだかる。


「こいつがあの化物スイカの親玉の祟り神かあ。だが、いくら身体がデカかろうと、所詮お前はスイカだ。大食いクイーンの私が喰らいつくしてやる!」


 ルリカの目の前にいるのは、街にいたスイカの化物とは比べ物にならないほど超巨大なスイカのモンスター。この化物は周囲に空気を凍りつかせるほどの殺気を放ちながら、無数の蔓をルリカに飛ばしてくる。


 伸びてくる蔓の猛攻を紙一重で避けたルリカは、バッグから素早く包丁を取り出して構える。


「巨大スイカくん、残念だけど、この包丁を持った私は無敵だ。こう見えて私、プロの料理人なんだ。まずはお前の身体を食べ頃のサイズになるまで切り刻んでやるっ!」


 ルリカが手に握りしめた包丁がキラリと輝く。彼女の華麗な包丁捌きによって、スイカの祟り神は美味しそうな食べ頃サイズへと解体されていく。あっという間に切り分けられた巨大スイカ。ルリカはその中からひと切れを手に取ると、勢いよく口に放り込んだ。


「うっま! なにこれ、神スイカじゃん! あ、元々こいつは神だったわ……。まあ、どうでもいい。巨大スイカ、これから大食いクイーンの私が全部食ってやるから、覚悟しなさい!」


 十分後――。

 祟り神、完食。


「ごちそうさまでしたぁ!」


 巨大スイカの化物はルリカの胃袋の中にすべて収まり、村の呪いは解けた。


「いやぁ、うまかったわぁ。よーし、次のうまいもん、食いにいくかなー。やっぱり江戸といえば、天ぷらか、うなぎでしょ! まあでも、うまけりゃなんでもいいわ。とりあえず、次の化物食材、早く出てこーい!」


 こうして、江戸の伝説となった大食いクイーン、ルリカ。彼女と食物のモンスターとの対決は、まだ始まったばかりだ。

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