第3話 "柚葉お姉ちゃん"としての役目

 「面倒?」

 「そうそう。健斗君のね」



 私はある日の晩、お母さんからそう言われていた。

 健斗君とは宮田健斗君。小2の男の子でお隣さんの子だ。



 「明日の土曜日、お母さんの真弓ちゃんが用事で帰ってくるのが遅くなるからね?それまでうちで面倒を見てあげるって話になったの」



 なるほど……。



 「柚葉はちゃんと面倒見れるよね?」

 「……」



 男の子か……。



 「自信ないのかな?」

 「い、いや!!そういう訳じゃないけど……」



 私は少し考える。



 「……彼氏いるのに、男の子と2人っきりって……大丈夫かな……?」

 「は?」



 小学生といえど男の子だ。一緒に過ごすのは……。



 「それじゃあ何で琥太郎君と2人で会ったりしてんのよ?」

 「あ……」

 「変わんないからね?」



 そうして私はその日を迎える。



 「お、お姉ちゃん……こんにちは」

 「こんにちはー」



 私は健斗君を家に迎えていた。



 「元気にしていた?」

 「……してたよ」



 あれ、健斗君が心なしか顔が暗いな。

 今の時間はお母さんもお父さんもお兄ちゃんもいない。私1人だけだ。



 「それじゃあ何かして遊ぼっか!」



 私は健斗君に提案する。



 「……うん」



 健斗君はモジモジしながら返事をする。



 「……」



 どうしたんだろ?いつもだったら元気よく自分から提案するのに─。



◇◇◇



 「そりゃっ!とりゃあっ!!」



 私と健斗君はゲームをしていた。因みにレーシングゲームね。



 「け、健斗くん速くない!!?」

 「お姉ちゃんが下手なだけだよ」

 「うぐっ……」



 ま、真面目にそう言われるとかなり傷つくな……。



 「そ〜……」



 次はジェンガで遊ぶ。今は私の番で、結構積み上がりギリギリな所。



 「そりゃっ!!」



 ガシャアァン!!!

 案の定私が突き倒してしまう。



 「うわー!!ちっくょーう!!」



 私は頭を抱えてオーバーなリアクションを取る。



 「……」



 健斗君はまだ元気がない。

 そしてトランプ、野球盤、ブロック……色々と遊んだが健斗君は一向に調子が良くならないどころかどんどんテンションが下がっていく。流石に隼人とやってるような"性的がどうたら"なことはできなしいしな。小2に変な興奮を与えたらダメだもんね……。



 「……健斗君」



 今は休憩として一緒におやつを食べていた。



 「何かしたいことある?」



 上手く表現はできないけど、どう踏み込めば良いのか分からず遠回しに私は尋ねる。



 「……」



 健斗君は食べていたクッキーを飲み込んで暫く間を置いた後にこう言った。



 「道場に行きたくない」

 「!」



 下を俯きながらそうポツリと漏らす─。

 道場とは、健斗君は空手を習っている。だからその意味だと思う。



 「攻撃されると痛いし、先生や先輩は怖いし、いつも泣いてばっかでみんなに笑われるし……」



 溜まっていた思いからなのか、健斗君は次第に震え始める。



 「辞めたい……辞めたいのにお母さんやお父さんに言い出せないし……」

 「……」



 私は黙って聞いていた。そして─。



 「健斗君は後悔ない?」

 「え─」

 「辞めた後、続ければ良かったとか、辞めなきゃ良かった……そう思わない?」



 小2のこんな幼い子にとっては酷く厳しい聞こえ方かもしれない。でも─。



 「今、言ってくれて良かったよ」

 「……」



 私はできる極限の優しさを込めて健斗君にこう伝える。



 「怖くなったり逃げ出した時は"お姉ちゃん"に会いに来てよ」

 「!」



 そうなんだ─。



 「お姉ちゃんは、健斗君の味方でい続けるよ。何があっても、ずっと」



 私はそう伝えた。



 「……お姉ちゃんは笑わない?」

 「笑わない」

 「殴らない?」

 「殴らないよ……」



 健斗君は俯いて何も言わなくなった。

 そして─。



 「うぐっ!!」



 床に落ちてゆく涙が、ひとつずつ私の胸に穴を埋めていくような感覚を感じた。



 「……」



 私は健斗君を優しく胸へと抱き寄せる─。



◇◇◇



 「健斗がそんなことを……」



 後日。私は健斗君の母親の真弓さんと私の家のリビングでテーブルを挟んで話していた。



 「本当に苦しそうでした」

 「……」



 真弓さんは少し間を置く。



 「あの子は少し臆病で引っ込み思案のところがあったから習わせていたんだよね……」

 「そう……なんですね」

 「……ありがとうございます」

 「!」



 真弓さんは頭を下げる。



 「私達親に言い出せなかったことを聞き出してくれて本当にありがとう……」

 「いえ─」



 私が隼人と付き合い始めた時も探りからの爆発だった。本音を言うのって本当に苦しい事─。



 「健斗に聞いみます」



 真弓さんは最後にこう言った。



 「今後も柚葉ちゃんのことを実のお姉さんのように接することがあるかもしれないけど、最後まで見てやってください」



 この時、私は心の何かがじんわりとしてくるのを感じた。

 その後─。



 「お姉ちゃんもう少し腰を落として!」

 「待って待って待って腰くだけるって!!」



 健斗君の空手の練習に付き合っています。

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【不登校な俺を支えてくる幼馴染のJKは俺が"大好き"な変態さん♡】アナザーストーリー アレクサンドル @ovaore

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