第2話 男女でも体温の温もりは

 「よっす隼人」

 「ん……」



 これは私が隼人と付き合ってすぐ、隼人の家に訪れた時のこと。



 「今日はさ筋トレしない?」

 「え……」

 


 隼人にこう提案していた。



 「筋トレ?」

 「そうそう」



 それは昼休みのこと。





 「柚葉ってさ、筋トレはしてるんだよね?」

 「えぁっ?」



 美琴に聞かれたことに私は驚いた。



 「し、してますよ?」



 少し動揺して返す。



 「ほんとか〜?」



 美琴は私をジトリと見つめる。



 「て、てか急にどうしたのよ?」

 「んー、なんとなく。柚葉って筋肉があるイメージがあまりないからさ」

 「え」

 「あ、分かるー」



 クラスメイトの女子、洋山愛ようやままながそう捕捉する。



 「莉珠や由芽子みたく筋肉質じゃないもんねー」

 「ギク」



 私が気にしていることを……!!!



 「脂肪が沢山ついてる訳じゃなしシュッとしてるけどポヨポヨしているイメージもあるんだよねー」

 「……」

 「でも、筋肉質じゃないからボディーラインが女性らしいって言うのかな」



 こう言われたってこと。





 「別に筋トレが重要って訳じゃないけどね?ただ、隼人もあまり動いてなさそうだなって」

 「あぁ、それは言えてるな」



 そう言って隼人は自分のお腹を触る。



 「……腹筋ある?」

 「なっ……!!?」



 お腹を触ってる隼人に私はふと呟く。ストレート過ぎたかな……?



 「……見たいのかよ?」

 「!!」



 私もビクついたけど─。



 「……」



 無言でコクリと頷く。



 「……笑うなよ……」

 「わ、笑わない」



 そして、隼人は自分の着ている前側の服を捲る。



 「あ……」



 光に照らされた隼人の腹には、かすかに割れた線が浮かび上がっていた。柔らかそうでいて、しっかりとした芯のあるライン──これが“シックスパック”なのか。



 「お、終わりな!」



 そして、隼人は服を戻す。



 「……綺麗だったよ」

 「あ……お、おう……」



 隼人はタジタジしていた。



 「……」



 ペタ。



 「え……」



 気づけば私は隼人の服の隙間に手を差し込んで隼人の腹筋に触れていた。



 「な、何を!!」

 「あ……」



 温かい……。腹筋ってじんわりしてるんだな。



 「……っ!」



 隼人は何も言えずにただ固まっていた。



 「あったかいよ」

 「……おう」



 くだらないことかもしれないけどさ─。



 「やっぱ温もりって良いね////」



 私はそう呟いた。



 「……」

 「そ、それじゃあ筋トレ勝負しよっか!!」



 そして、仕切り直すようにそう声を上げる。



 「勝負?具体的に何すんだよ?」

 「何分プランクできるかとか、何回腕立てできるかとか」

 「柚葉には辛いんじゃない?」

 「は?」

 「柚葉って筋肉ある訳じゃないじゃん?」



 は、隼人もそんなことを〜……!!



 「ありますから!!私だって少しは硬いですから!!」

 「腹筋が?」

 「ぜ、全身!!」

 「どういうことだよ(笑)」



 なんか腹立つ。



 「それじゃあ私とプランク勝負して負けたら3日間毎日腕立て100回」

 「いやー、俺は良いけど柚葉は辛いんじゃない?キュッとしたポヨポヨだし」

 「前に私の水着姿見た時そう思ってたんだ?」



 私は思わず隼人をジト目する。



 「いや、引き締まってるよ?脂肪も少ないし。でも、硬いイメージがないからポヨポヨって言ってる」

 「ど偏見じゃん!!じゃあ私の腹筋触ってみてよ!!」

 「え」

 「あ……」



 思わずムキになってこんなこと言っちゃった……。



 「……」



 隼人も反応に困っている……。



 「さ、さっきのお返し……」

 「……い、良いの?」



 どうしよこの空気……。

 私が原因だとしても隼人の言葉にムキになりすぎちゃったよ……。



 「触って」



 でも私は制服を捲る。



 「……おお……」



 私の素肌を見て隼人が声を上げる……。



 「どう……かな?」



 私はモジモジしながら聞く。



 「……とりあえず……さ、触る」



 隼人は言葉にしたくないのか行動で示そうとしている。

 ピト……。



 「ひんっ……////」

 「!!」



 ビクッと体が跳ねる。指先が腹筋をなぞったその瞬間、声が漏れた。止められないよ……////



 「……」



 隼人は指先でなぞるように触れていた。



 「くすぐったいか?」

 「少し////」



 私はもう"何か"感じていた。



 「訂正……するよ」

 「え……?」



 隼人は私の顔から目を逸らしてこう言った。



 「触り心地の良い筋肉と脂肪だよ////」

 「うぎっ……////」



 私はもうどう返せばいいか分からない─。

 この日、腹筋を触り合っただけで筋トレはできなかった。

 でも、体温を感じられて少し興奮したな……////

 そして、私は筋トレしたいんじゃなくて身体を褒められたかっただけだって─。



 「バーカ////」



 隼人にも自分にも当てはまる言葉を私は吐き出していた。

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