魔法と恋
@shimoyukikakeru
第1話
春。
暖かな空気が身を包み、桜が舞い散る季節。
出会い、別れの季節。
僕にとって今年は、前者の季節だった。
「センパイ、好きです。付き合ってください!」
16年と半分の人生。
恋に全く縁のなかった僕にもついに、この時がやってきたかと、心が踊っていた。
「ええっと、君は、誰、だったっけ?」
同時に困惑もしていた。
顔を見ても、覚えがない。
身長は155センチメートルないくらい、紺色髪のツーサイドアップ。
センパイ、と言うからには、後輩だろう。
新1年生だ。
でも、今は春。
当然、彼女は入学して間もない。
もちろん、僕も後輩との関わりはほとんど無い。
ましてや女子とならば、だ。
「あっ。すみませんセンパイ!まだ名乗っていませんでしたね!」
いや、名乗る以前の問題のような気がするんだけど。
「
そう彼女は、日村さんは笑顔で挨拶をする。
「ええっと、僕は、
戸惑いながら挨拶を返す。
「人違いじゃ、ない?」
ここまでくると告白された嬉しさより、疑問が勝ってしまう。
薄々思っていた事を口にする。
「いいえ!ケンセンパイであってます!」
ハキハキとした、元気な声で否定された。
なるほど、余計、わからなくなった。
「それで、どうなんですか?付き合って、くれるんですか?」
日村さんの終始笑顔だった顔が、少し曇る。
どうやら彼女も本気らしい。
「うーん。」
一目惚れと言うやつなのだろうか?
正直、まだ関わりのない人といきなり付き合うというのは、どうかと思う。
「いいよ。付き合おう。」
しかしそれは、断る理由にはならない。
「え、ほんと、本当ですか!」
僕は大きく頷く。
「やった、やったあ、」
日村さんは嬉しさのあまり声を漏らし、笑みを浮かべる。
それは、とても明るくて、とても眩しくて、とても輝いていて、
「うぅ。ううう。」
とても、嬉しそうに、泣いていた。
「ええっ!ちょ、泣かないで。」
「だってぇ、だってぇ。」
僕が予想していたより、日村さんはこの告白の成功を喜んでくれているらしい。
涙が止まらず、顔が汚れていく。
「ほら、ハンカチ。使って。」
見かねた僕は、ポケットにあったハンカチを差し出す。
「ぐすっ。あ、ありがとうございます。」
礼を言った日村さんは赤くなった目をハンカチで拭う。
口角が少し上がっていたので、本当に、嬉しいのだろう。
僕もそろそろ、実感が出てきたところだ。
そうか、僕に彼女ができたのか。
もちろん、まだ、疑問点は残っている。
このまま付き合って大丈夫なのかという懸念点もある。
でも、まあ、誰かが、日村さんが、嬉しそうにしてるし、いいか。
僕も嬉しい。
ここからは、きっと楽しい毎日が待っているはずだ。
「それじゃ、日村さん。これからよろしく。」
改めて、挨拶をする。
「センパイ、日村さんじゃなくて、レイでいいですよ。」
予想とは違う言葉が返ってきた。
「え?いや、いきなりそれは、」
こういうのは、もっと段階を踏んでいくものでは?
「もう!じゃあ、レイって呼んでください。」
提案が命令になった。
うーん。最近の恋愛はこういうものなのか。
知識が昔の本とかドラマとかで止まってる僕には、少し、恥ずかしいが、
「わかった。じゃ、れ、玲。」
噛んだ、ださい。
「はい!」
恥ずかしがっている僕とは逆のハッキリとした返事を日村さんは、玲はする。
僕も気を取り直して、今日3回目となる挨拶をする。
「これからよろしく。」
「はい!センパイ!」
玲は笑う。
今日1番の、満面の笑みで俺を見る。
その笑顔があまりにも眩しすぎて上に目を逸らしてしまう。
赤く染まった、空が、僕たちを見ていた。
「センパイ。」
声を掛けられ視線を戻す。
玲が移動していた。
僕に背を向け、近くの生い茂った草むらの近くに立っていた。
「どうしたんだ?」
明らかに先程までの様子と違う玲に心配し、駆け寄る。
「センパイ。」
玲が振り向く。
その顔は、笑顔とはかけ離れたものだった。
「死んでください。」
瞬間の出来事だった。
玲は草むらに手を突っ込んだ。
その手には包丁があり、そのまま俺の腹部を貫いた。
痛みが走る。
驚きが脳を支配する。
刺されたところから熱さを感じる。
足に力が入らなくなり、そのまま倒れ込む。
グサッ、グサッっと、刺される音が聞こえる。
熱さは次第に全身に広がり、脳が叫ぶ。
やめて、やめてくれと叫ぶ。
手を伸ばして、玲を掴もうとするも遅く、意識を失った。
そうして僕は死んだ。
はずだった。
気づけば痛みは無くなっており、僕は寝転がったまま夜空を見ていた。
意識をほぼ取り戻し、立ち上がる。
近くに俯きながら体操座りをしていた玲がいた。
「あっ、センパーーーーイ!!!」
玲は僕に気づくとすぐに立ち上がり、告白の時見せた笑顔のまま、勢いよく抱きつく。
僕はそれに耐えきれず、押し倒され、また寝転がる。
「センパイ!センパイ!センパーイ!」
とっくに枯れたと思っていた涙を流しながら、抱きついて離れない。
僕の脳は、情報量の多さに、停止していた。
「失敗したかと思いました。成功して良かったです!」
成功、成功?
「何が、起こったんだ?」
言葉を絞り出す。
「センパイは、死んで、幽霊になったんです!」
幽霊、幽霊!?
「えっ、ちょっ、本当に?」
「本当です!ごめんなさいセンパイ。あれが1番手っ取り早かったので、何も言わず殺しちゃいました!」
え?は?え?
「これでセンパイはこれから私と、文字通り一心同体です!」
わからない。
わからないことしかわかることがない。
いや、1つだけ確かなことがある。
僕は、巻き込まれたのだと。
凄く危険なところに、足を無理矢理踏み込まされたのだと。
ここからは、きっと楽しい毎日が待っている。
僕の予想は、外れるかもしれない。
魔法と恋 @shimoyukikakeru
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