「居直り」
低迷アクション
第1話
自転車と人の接触事故は増加している。原因は色々だ。イヤホンレスのスピーカーはつけている本人と外部の音を完全に遮断するし、他者からも、相手が音楽を聴いていると言う認識を失くす。自転車用に設けられた専用路は狭すぎて、自転車は歩道か、車道を走る。
高齢運転や、安全講習を知らない子供達の無謀運転、例を挙げれば、キリがない。
だが、接触等の事故を起こし、加入や着用を努力義務とされている保険の未加入、ヘルメットがなくても、
乗り手は賠償費用に対し“払えない”と言う居直りが現実の社会では“通用”し、
轢かれた方は泣き寝入りと言う“現実”…
だけではない話を述べたい…
「あ、あ、ああああ」
何か大きく固いモノにぶつかった衝撃、自分とは違う他人の生活臭が鼻孔を掠めた後の糸の切れたような声…
それら全ては、地面に転がっている老婆から発せられていた。
学生の“S”は、自分が見通しの悪い住宅地の塀に自転車で走り込み、彼女を轢いた事を自覚した。
助けを請う手を無視して逃亡したが、
通報され、事故が露見する。
交通違反等の罰則はあったが、彼がイヤホンで音楽を聴いていた事は、証拠がないため、確認されない。自転車登録時に必須となる自転車保険に未加入の件も、マイナスではあったが、逆にそれが、多額の賠償請求を払えないと言う“言い訳”になり、
Sとその家族が社会的に抹殺されるドラマや小説のような展開にはならず、彼自身も、すぐ自転車に乗るようになる。
老婆は助からなかった。
一ヵ月が経ち、通学を急ぐ、彼の眼前すぐ傍の塀から白髪が覗く。
ブレーキを踏んだが、間に合わず、壁にしたたか頭を擦りつけた。件の白髪の人物は何処にもいない。
次は友人宅から帰り、十字路に現れた老婆の背中を避け転倒…頭のすぐ傍を走るバイクに肝を冷やす。
翌日は家の近く、最後はスーパー近くの通りで…
今度は酷く、右手指3本は後遺症が残った。
危険運転を顧みないSも、流石に気づく。
一月前の老婆を轢いた時と同じ状況で、自分は事故に遭っている。
なら、気にしなければいい。
老婆のようなのがチラッと見えても、ペダルを踏む。そうすれば、大丈夫。
だから、自宅に帰る時の近道…視界を塞ぐ高い塀から衣服が覗いても、迷わずスピードを上げた。その直後に凄まじい衝撃と鼻孔を走る自宅の匂い…
目の前の血溜まりでのたうつのは、彼の母親…
「あ、あ、ああああ」
呆然とするSのすぐ横で、糸の切れたような声が響いた…(終)
「居直り」 低迷アクション @0516001a
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