第31話 果てなき熱砂
その翌朝の事、昨晩の寒さが嘘のように太陽が強く照りつける中、宿の中でアルヴィス達が目を覚ます。その後、一階の酒場へと集まると朝の活力をつける為に食事を取り始めた。
「船長さん達、早朝には出発しちゃったんだって。ちゃんとお別れは言っておきたかったなぁ……」
シャルロッテが話題を切り出し始め、何気ない会話が始まる中、メロディは一人考え込んでいる様子だった。
「メロディ、どうかしたのか?」
アルヴィスが声を掛けると、はっとした様子でメロディは
「いや、何でもない、気にしないでくれ」
そう言って取り繕う様子を見せる。そんな彼女の意識の方は、昨晩の事へと傾いていた。
『……貴方だけには話しておいた方が良いかもしれません。私が……何者なのかを』
リシュアのその言葉の後に明かされた事実は、彼女を大いに驚かせる——
——あの後、リシュアとメロディの二人はその秘密が第三者の耳に入らないよう、宿の屋上へと場所を変えていた。外では寒風が二人の言葉を掻き消し、まるで秘密を守るように大きな音を上げ強く吹き付ける。
『まさか……本当にそんな事があり得るのか……?』
『ええ、事実です。そう簡単に信じてはもらえないと思いますが……』
メロディとしても、彼の明かしたそれは普段であれば信じようとはしなかっただろう。だが……
『……信じるしか無いだろうな。確かに、それが事実である方が辻褄は合う』
『ありがとうございます。この事は、もしもの時の為に共有しておきたかったので。それと……今回私の話した事はアルヴィスさんとシャルさんには内密にお願いします。余計な混乱は招きたくないですから……——』
——それから、朝食を済ませたアルヴィス達は、これから進む過酷な道を往く為の準備を町中で整え、いざジャトロファ砂漠へと旅立つ。
一応覚悟はしていたものの、それでも砂漠という環境は実際に体感すると予想以上に厳しいものであり、強烈な直射日光の熱が急激に彼らの体力を奪っていく。
町での準備に加え、リシュアとメロディの力で周囲に微量の冷気を纏い体を冷やすという手段もとってはいるが、広大過ぎる砂漠と二人の負担を考慮すればそこまで多用できる方法でもない。
それだけではなく、巨大サソリ等の過酷な環境下に適した生物達がそのまま凶暴化したような魔物が体力を消耗した一行へと襲い来るのだった。
「くっ……!」
巨大サソリの鋭い尻尾がアルヴィス達の元へと叩きつけられる。一行は間一髪回避し、その際に生まれた隙を逃さない。
「光の鎖よ、その輝きで仇なす者を縛り付けよ!拘束術式『プリズムチェイン』!」
「魔の糸よ、鋼の如き頑強さで彼の者を封じよ!束縛術式『バインドウェブ』!」
シャルロッテとメロディの詠唱によって巨大サソリのハサミと尻尾がそれぞれ拘束され、その自由を奪う。
「行くぞ、リシュア!」
「ええ!」
サソリが激しくもがく中、アルヴィスとリシュアが跳び上がり、胴体へと取り付くと、その刃を足元に突き立て、心の臓を貫く。
「キシャアアアアッ!!」
その瞬間、サソリが大きな音を上げたかと思うと、拘束の中激しく暴れていたのが段々と大人しくなっていく。
「なんとかなったか……」
サソリが絶命したのを目視すると、アルヴィスは鞘へと剣を収める。
「しかし、ここまで魔物の攻撃が激しいと、ジャトロファの町に着くまで持つかが心配だな……」
メロディのその懸念にリシュアも頷き同意する。
「確かに、見晴らしの良すぎる場所である以上、隠れてやり過ごすという手段も取りにくいですからね……」
そのようなやり取りをしている中、ふとシャルロッテがある一方に目をやる。
「……あれ?」
シャルロッテは思わず駆け出して行く。それを見て一同も慌てた様子で
「えっ、シャル?どこ行くんだ?」
メロディの言葉を皮切りに彼女の後を追っていく。しばらくするとシャルロッテは立ち止まり、辺りをきょろきょろと見回す。
「あれ……おかしいなぁ、確かにこの辺りにあったように見えたんだけど……」
「シャル、一体どうしたんだ、何かあったのか?」
首を傾げるシャルロッテにアルヴィスがそう問いかけると、シャルロッテは一同の方へと向き直る。
「ごめんなさい、こっちの方にオアシスがあったように見えたんだけど……」
シャルロッテから語られた内容に反し、周囲には水の気配もないどこも変わらない砂の一面だった。メロディはそれを聞いて少し考えると、一つ心当たりがある様子で口を開く。
「むぅ……もしかすると蜃気楼というやつかもしれないな」
「蜃気楼?」
「ああ、砂漠のような環境でよく観測される、遠くに湖のような幻影が見えたりする現象の事だ。オアシスと間違えたという話もよく聞くし、恐らくシャルが見たのもそれじゃないか?」
「そうなの……かな……?」
メロディの説明に関心しつつもどこか腑に落ちないような様子を見せるシャルロッテ。
「どちらにせよ、ジャトロファの町はこっちの方角じゃない。迷わないうちに道を戻って町へ急ごう」
アルヴィスが仕切ると、一行は元の道の方へと歩き出す。その間、シャルロッテの心中では一つの疑問が中々離れなかった。
(蜃気楼って、あそこまで草花もはっきりと見えるものかな……)
それからしばらく、魔物の襲撃に対処しながら砂漠を進んでいくと、ついに遠くに緑や建物が目に見えてくる。
「あれは……!」
苦難の末、ようやく目にしたオアシスに一行の足取りは軽くなる。こうして辿り着いたのは、先程まで見飽きた砂一面とは打って変わり、大きな湖を中心に少ないながらも命の息吹を感じる緑、それを囲うようにいくつかの建物が存在していた。
「ようやくジャトロファの町に到着出来たな。このまま砂漠が続くんだろうかと心配で仕方がなかったが、本当に良かった……」
久方ぶりに文明と再会出来た事に安堵するメロディの一声。そこでリシュアが
「ですが、これで終わりじゃないですよ。私達の目的は土の精霊の手掛かりを見つける事なんですから」
そう釘を刺すと、アルヴィスも頷く。
「ああ、その為にもまずは情報収集をしないとな。有用な手掛かりが得られると良いんだが……」
と、ここからの方針を一行が話し合いながら町の探索を始める。日干し煉瓦の積み上げられた民家や店が並ぶ町並みに新鮮さを感じながら歩き回っていた一行であったが、その時、前方から何やら急いでいる様子の青年が走ってくる。
「やばっ、寝過ごした!遅刻だ!早く行かないと……ってうわっ!?」
日差しを避ける為に白い布で全身を覆った青年は、無我夢中で駆け抜けた結果、その前にいたアルヴィスに気付くのが遅れたようで激突してしまう。
「いてて……」
「おい、大丈夫か」
尻餅をついてしまった青年に対して手を差し出すアルヴィス。青年はすぐに握り返し、立ち上がった後で服についた砂を払い、一行方へと向き直った。
布によって隠れていたその素顔がよく見え、その顔つきは少し日焼けした、少年らしさをまだ残す黒髪の好青年といったものであった。
「ごめんよ、ちょっと急いでたもので。ところで見ない顔だけど、もしかして旅の人かい?」
「ああ、この地に伝わるという土の精霊に関する伝承について知りたくてな。確か、この町はそれに関係する文明について調べていると聞いて寄らせてもらったんだが……」
アルヴィスの言葉に青年は驚いた様子で改めて一行を見つめる。
「そりゃ驚いた、今の砂漠は魔物の巣窟と化しているっていうのに、ここまで来れるなんて相当な強者なんだな」
「ところで、何やら急いでいたようですけど、どちらに向かおうとしていたのですか?」
リシュアが問うと、青年は頬を人差し指で掻きながら答える。
「ああ、ちょっと古代文明の遺跡調査にね。とは言っても、もう少し早く出発するはずだったんだけど、うっかり寝過ごしてしまって……」
「遺跡?この辺りに遺跡があるのか?」
そのワードにメロディが即座に反応する様子を見せる。すると青年は得意げな表情で語り出す。
「ああそうさ、この砂漠には古代文明の遺構と思われる建物がちらほらあってね、この砂漠に突如として消えた古代文明の謎を解き明かす為に、日夜頑張っているのさ……っと、いけね、急がないとリーダーにどやされる!」
そう言ってすぐにでも駆け出そうとする青年にシャルロッテが呼び止める。
「待って!もし良ければなんだけど、私達もその遺跡に一緒に行っても良いかな……?」
そう聞かれた青年はしばしの間、ぶつぶつと呟きながら考え込む。
「……そうだなぁ、勝手に連れて行ったらリーダーに怒られそうな気も……いやでも、魔物のせいで調査も捗らない訳だし、どうにか出来る強い奴を連れて行ったらむしろ喜ぶかも……」
すると、青年の中で結論が出たようで、すぐに返答に対応する姿勢に入る。
「ここで会ったのも何かの縁だ、折角だし一緒に行こうぜ。もしかするとリーダーもお前達のような人材を欲しがっているかもしれないからな。俺はウェイン、あんた達は?」
青年、ウェインは自らの名を明かすと、アルヴィス達もそれぞれ名乗る。
「よっしゃ、それじゃあ行こうか。盛大に遅刻しているし、急がないとリーダーも立腹だろうからな……」
ウェインは少し不安げな面持ちを見せながらも先導していく。アルヴィス達は土の精霊の元へと向かう為の新たな一歩を求め、彼の後を追い出発するのであった。
運命と絆のトリックスター 雪名 @setsuna9
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。運命と絆のトリックスターの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます