本作を読んで感じたことは、恐らくメインのテーマではありませんが、人間の「死に対する感覚の変化」です。
本作に登場する人々は、死を恐れている様子がほとんどない。いや、恐ろしいものであり避けられないものとは思っているものの、どこかドライに向き合っている。そう感じました。
少子高齢化が進む日本は、人口が減少の一途を辿る可能性が高いでしょう。生まれる人間の数より遥かに死ぬ人間が多くなる社会が来るかもしれません。そうなった社会では、私たち人間が「死」を今と同じ価値観では捉えないのではないか。あまりにも多すぎて、身近すぎて、大ごととは捉えなくなってしまうのではないか…そんな将来の可能性を感じました。
世界の終末というか、「末期」な状況をありありと垣間見させられる作品でした。
「霊感」のある人間が次々と死んでいく。
死霊の姿を見ることができる人間は、同じく相手からも姿を見られ、憑依されて命を奪われることになる。
まさに、「深淵を覗く時、深淵もまた自分を覗いている」という状態。
死者が溢れる町の中で、霊感がないことでどうにか一命を取り留めている主人公。それでも、死者の数が増え続けている状況では、いつまで自分たちも安全かわからない。
ゾンビの徘徊する世界なども彷彿とさせる、アポカリプスな世界観。そんな中でどうにかその日その日の暮らしを続けるが、「要石」が壊されることにより、霊感のない人間でも「何か」を感じる場所が出現を始めて……
緊迫した状況の中でも、どこかリラックスした雰囲気のある主人公たちの掛け合い。
世界が終わり始めたことにより、一切合財の「義務」が消え、「未来」について考える必要もなくなる。先のことを考えなくていい気楽さのようなものを享受しているようにも見えます。
異常すぎる世界の中で、異常とうまく折り合いをつけて生きていく姿。特殊な世界観の面白さと共に、主人公たちのコミカルな感じが楽しい一作でした。