列車と雨と悟りの物語

古 散太

列車と雨と悟りの物語

走りだす列車のドア付近に立つ

動かなくても景色は流れていく

遠くから踏切の警報音が聞こえ

あっという間に通りすぎていく

遮断機の外側に立つ君が見えた

見つめることもできない速度で

列車は無表情に次の駅へ向かう

君が笑顔だったか泣いてたのか

確かめることもできないままに

人生の一瞬に重なりあった喜び


見わたすかぎり雨が降っている

空全体から雨の粒が落ちてくる

どれぐらいぼくに触れるだろう

灰色の空を見上げて口を開ける

どれぐらい口の中に入るだろう

袖触れあうも他生の縁になる雨

時間を忘れて口を開けたままで

目を閉じ雨が触れるのを感じる

数が多すぎてわからなくなった

何の感情もなく今を生きている


目に見えるものすべてが溶ける

極彩色のマーブル模様に囲まれ

ぼくの存在は希薄になっていく

ここがどことかぼくが誰かとか

そんなことどうでもいいことで

森羅万象の一部に混ざりこんで

ぼくはこの世界のすべてになる

過去も未来もすべて今にあって

たくさんの出来事がここにある

すべてがわかったから生きてる

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列車と雨と悟りの物語 古 散太 @santafull

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