雨とクジとチョコレートと

ミクラ レイコ

雨とクジとチョコレートと

 放課後の高校の玄関で、私、吉永奈緒は途方に暮れていた。土砂降りの雨が降っているというのに、傘を家に忘れてしまったのだ。このまま帰るのはあまりにもキツイ。


「何だよ、吉永。傘持ってないのか?」


 クラスメイトの柳瀬高広が、紺色の傘を持って私に話し掛けてきた。私は、平静を装って答える。


「うん、そう。走ってコンビニまで行くしかないかな」


 柳瀬は、少し考えた後、何でもないというような表情で言った。


「じゃあ、コンビニまで、俺の傘に入っていくか?」

「え!?」


 私は、思わず大きな声を出した。え? 私、柳瀬に惚れてるんだけど? 短距離とはいえ、相合傘になるんですけど!?


「……嫌なのかよ」


 柳瀬が、ムスッとした顔で言う。


「い、嫌じゃない!……じゃあ、せっかくだし、お願いしようかな」


 こうして、私達は同じ傘に入って学校を後にした。



 アスファルトの道を歩きながら、私の心臓の鼓動はこれでもかという程強くなっていた。

 近い。柳瀬との距離が近い。私の右を歩く柳瀬の腕に、私の腕が触れそうになる。今絶対、私の顔は赤くなっている。


「……おい、もっと近づけよ。濡れるだろ?」

「だっ。大丈夫だよ! ちょっとくらい!」


 私は、声が裏返りそうになりながらも何とかそう答えた。


 コンビニに着くと、私は柳瀬に言った。


「傘に入れてくれてありがとう。……あの、コンビニ、寄ってく? お礼に、お菓子の一つでも奢るよ」

「お、いいの? サンキュ!」


 そう言って、柳瀬はニカっと笑った。


 コンビニで、私達はそれぞれ欲しいものを選び、レジに並んだ。レジでは、クジに当たったら人気アニメのミニタオルがもらえるというキャンペーンをしている。


 まず私がお会計。自分が欲しいものプラス、柳瀬に奢るチョコレートをレジに通してもらう。ちなみに、チョコレートは柳瀬のリクエストだ。

私が小さい紙のクジを引いて中身を見ると、ハズレの文字が目に入った。


「あー、外れた!」

「運が無いなー、吉永。よし、俺が当ててやる!」


 そして柳瀬がお会計。クジの結果は――ハズレだった。


「だあああああ!!」


 柳瀬が両手を頭に当てて叫ぶ。そんなに残念だったのかな。そういえば、柳瀬はこのアニメ、結構好きだったっけ。


 コンビニを出た後、ビニール傘を差しながら私は柳瀬に声を掛けた。


「残念だったね、柳瀬。ハズれちゃって」


 柳瀬は、クルリと私の方を向くと、ニカっと笑って言った。


「いや、俺は運がいいよ」

「え?」

「バレンタインデーには程遠いけど、お前にチョコレートを貰ったからな」


 そう言うと、柳瀬は駆け出して行った。私は、しばらく呆然とその背中を見つめる。

 え? 今の、どういう意味? え? 私のバレンタインチョコを欲しているという意味なのか?

 ズルい。不意打ちでそんな事言うなんて。


「待ってよ、柳瀬―!」


 きっと私の考え過ぎだと思いつつ、私は柳瀬を追いかけた。


――私と柳瀬が付き合うまで、後約三か月――

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