八百裸漢
@aiba_todome
八百裸漢
「おぢさんのトンネル効果見てて……」
そう言って自らの菊紋をまろび出そうとした全裸中年男性を
「しまった!次元歪曲が崩れる!」
ぶちぶちという空間断裂時の汚い音が船内の空気を震わせる。汎用遠距離輸送船『アポクリン艦船』はお尻を見せた子一等賞で謎の惑星に一番乗り。
無限のエネルギー源、全裸中年男性が発見されて数千年。人類は銀河に広がり、さらなる生存圏の拡張のために銀河間航路の開拓に勤しんでいた。
一切の衣服を纏わぬ中年男性の見た目で奇行を繰り返す以外は、汚染も副作用も存在しない夢のエネルギー。しかし理を超えた力は、超存在・神奈河圏警を呼び寄せ、世界は混沌としたまま広がり続けている。
大気には幸い底があった。固い地面に着地すると、標準重力よりわずかに重い引力が背骨にかかる。船の機械は消費することのない空気を吸引し、無数の検査機械を通して、その臭いを伝える。
空気中には異臭のある微量の有機物が漂っているようだったが、呼吸に問題はないようだった。
「むむっ、微量なメタンとアンモニアを粘膜検知!尻から呼吸することで健康被害を極限するぞ!ほらはやく君も全裸になって!」
刺激性の大気に肌をかぶれさせながら全裸の中年男性が手をこまねく。佐々木は赤くなった肌に塩を撒きつける。
「ギエー!」
全裸中年男性は上と下から同時に断末魔の鳴き声を上げて転がっていく。全裸中年男性には塩だと思われているが実は砂糖でもOK。
しかし一種の虫は一匹見れば三十匹はいるとのことわざ通り、辺りには卵のように丸まった無数の全裸中年男性が……。
「なんでこんなに全裸中年男性が。ここは健康ランドのサウナか?それとも……」
神奈河圏警を構成する光の粒子が、声なき声を肯定するように揺らいだ。
「ここは八百裸漢なのか!?」
全裸中年男性発祥の地と伝わる伝説の惑星。人類が全銀河に拡散した今となっては、その所在すら不明なままだった。そこには無尽蔵のエネルギーを秘めた全裸中年男性が限りなく存在するという。
「気づいたようじゃな」
いつの間にか立ち上がっていた全裸中年男性が近寄ってくる。近づいてほしくない。
「予言の歌にはこうある」
空気 凍てつく時
腹に 間ある時
白き裸体人 "ハゲまく光" を示す
すなわち
しかしこの中年男性はアンダーもレス。つまり全裸だ。
「おまけに娘ができてから嫁ともレスでのう。ま、どっちもワシの頭の中だけに存在するんじゃが、な!」
記憶が幻と分かっても呵々大笑するその姿は士郎版の貫禄がある。しかし公安9課に射殺される方の出で立ちでは……。
神奈河圏警に透明にされた全裸中年男性は、ヘッドギア型の装置を残した。中にはVRゲーム『裸体』がすでにインストールされている。
「これなら八百裸漢について何か分かるか?」
若さゆえの無鉄砲か、とりあえずかぶってみる。すると目の前に現れる広場。上空には巨大な全裸中年男性だ。
「この世界はワシが作ったデスゲームや。作るのが目的やから意味はないで。これはゲームであっても遊びではないからそこんとこよろしく。全裸がゲームではあっても遊びでは済まんようにな。ほなバイちゃ」
アンドロイド語で別れの挨拶をした全裸中年男性の電気羊を、現実世界で神奈河圏警が銃撃。過充電されたナウいギアは全身をくまなく走査し、逆流した光が股間の神聖剣をバチバチに……。
「ゔお゛お゛お゛お゛お゛お゛ん゛」
これは、お母さんクジラが、赤ちゃんを逃がすために絞り出した、最期の声。これを聞いても、あなたは全裸中年男性の殺戮に賛成ですか?
しかしこの声は実のところ、広大なネットの海で仲間を探そうと足掻く、孤独な52ヘルツのクジラのものだったのだ。
雨の中の涙のように掻き消えたゲームマスター系全裸中年男性だったが、ゲームはまだ続いている。佐々木は攻略のためダンジョンへ向かった。
そこには深刻な顔で話し合う二人の全裸中年男性が。一人は笹かまぼこを耳に着けた全裸中年エルフ男性だ。中年エルフ男性ならメロいが、全裸では悪魔もまたぐ悪またである。
「何かあったんですか」
佐々木の声に全裸たちが顔を上げた。
「実は仲間がドラゴンに喰われてしまって、急いで助け出さないといけないんです。なのでダンジョンにあるものを食べながら攻略しようかと……」
そういって全裸中年男性が拾い上げたのは、脱ぎ捨てられて幾千年を
「これを今日の昼飯にしてみよう」
「ヤダーッ!!」
あまりの異常行動にさすがの全裸中年エルフ男性も全力で拒否!激しくブレイクダンス!チンポが廻る!
「イヤーッ!」
佐々木はその隙を逃さず、トゲの付いたサスマタを突き出し討伐成功。報酬はしょっぱかった。
百階層のダンジョンではあるが、名作は百階のダンジョンを七十四階まで飛ばす。よって大きく割愛。
最深部の魔王を倒すには七つある
錬金術師も当然全裸中年男性だが、
「ホムンクルスが必要だ」
突如としていきむ全裸中年男性。何事かと近寄ってみれば、ホムンクルスではなく『ほっ、産む、ん、来るっす』と言っていた。
この世界には 人の運命をつかさどる何らかの超越的な「律」
神の手が存在するのだろうか
少なくとも人は 自分の肛門さえ自由には出来ない。
「黄金律ってタマのことだと思う?それとも……」
忌まわしき糞喰いがその本性を露わにする寸前、神奈河圏警の英雄的殴打がラダゴンをマリカに……。
最深部の魔王を倒すには七つある
「今こそ天下布武から布を抜いて天下武ぞ!見よ!ワシの高い城を!」
しかしそこにあったのは史実の通り、焼け野原の陰毛に廃墟がぽつんと一軒……。
そしてヘビースモーカーズフォレストの奥深くで木製戦車による世界征服を目指していた犬人間よろしく、自衛隊装備でスペースオペラに勝てるはずもない。トライポッドで全裸長嶋巨人応援軍を撃破した佐々木は現実へ……。
目の前には朽ち果てた川崎の
「なんてことだ。ここは我らが母星、地球だったのか」
衝撃の事実。くずおれる佐々木。
「何よこれ!ほとんどヒモじゃない!」
そう絶叫してスーパー銭湯から島風コスを贅肉で
「おわっおまわりさん!安心してください、はいてますよ」
とにかく明るく言ってみたはいいものの神奈河圏警はそういう
スーパー銭湯は非ユークリッド幾何学の面で構成されており、壁面の彫刻には地球が見舞われた、人間の想像を絶する恐るべき災禍と、人間の辿った愚行と英雄的行為の歴史が、驚嘆すべき技巧でありありと記されていた。
全裸中年男性による無限のエネルギーで繁栄の絶頂を極める地球。しかし無限のエネルギーの
その解決のために、通常の中年男性を用いてさらなる全裸中年男性を製造。この惑星の全裸中年男性たち。彼らは人間だったのだ。
人口は半減し、人は自らの行いに恐怖した。
惑星の熱暴走を防ぐ最終手段として、地球を太陽系から切り離す方策がとられた。地球移動計画である。流浪の星となった地球は、月を燃した人口太陽と共に暗黒の宇宙を放浪し続けていた。
「つまりこの星では天動説が正しい!痴。いや、変態のうんこ、う!について、か!」
ぱふぁ、と中身を吐出する前に神奈川圏警に撃たれた全裸中年男性は、しかし消失せずに死体を残す。
「こいつ、人間ですよ」
佐々木がつぶやく。だが裸人に人権がないのは同じなので問題はない。
奥に進むにつれ彫刻の精度は低下し、中年男性のアウトサイダーアートの様相を呈してくる。
目の前に漆黒の壁が立ちふさがった。神奈川圏警が射撃するも、壁面は鈍いつやを保ったままだ。
「こいつは
ふにゃついたものを誇示するなぜか名古屋弁の全裸中年男性。川崎なのに。
そこに突然現れた筋肉モリモリマッチョマンの燃えさかる全裸中年男性が、ブラブラ全裸中年男性の顔面を粉砕。そして佐々木に謎の粒を渡す。
「パイアだ!!」
男は消えた。
念ずることで発火する最終兵器にて、超構造体を爆破。中には円盤のような物体が。中から出てきたのは、犬。かと思いきや、次々に姿を変え、カニのようにタコのようになったかと思えば、ついには類人猿の姿をとり、やがて全裸中年男性に……。
「Among ass!!」
追放!
スーパー銭湯の外に放り出された全裸中年男性は、スライム状の流体に飲み込まれ、猛烈な加圧により光の玉になってティウンティウンとはじけ飛んだ。
「グオオレウウウウウウウンンンン!!」
スライムに見えたのは人間と呼ばれる半透明の不定形生物。
隷重類によって編まれた
「ぎええええええええ!!」
「おわああああああああああああ!!!」
さしもの全裸中年男性たちも、コズミック全裸中年存在を相手にしては分が悪い。次々に決裁される全裸中年男性。贅を飲み
さらなる
多次元相転移によるエネルギーの汲み出しは、三次元世界のあらゆる分野を発展させた。しかしそれは、全裸中年男性と呼ばれる新たな高次元の脅威をも生み出すことになった。
増殖する全裸中年男性に、銀河と重なり合う高次元、神奈河は、攻撃力を持つ個体を創設してこれに対抗した。
神奈河圏警の誕生である。
全裸中年男性がエネルギーに変わる前に、神奈圏警から放出された光が大爆発を引き起こす。全裸中年生命の三分の一が蒸発。さらに利液を
収贅官の働きですっかりしぼんだ全裸中年生命は、服を着せられ
佐々木は逮捕に協力した功により、次元跳躍に十分な燃料を得て飛び立った。
だがその船倉の奥深く、丸くなった全裸中年男性が、にちゃあと汗の糸を引きながら孵化し……。
「夏への扉が見当たらんぞい!おお!ピート!ピートじゃないか!ワシに夏への扉の在りかを教えとくれ!ピート―!」
自分のどこかから生えた尻尾を追い回す全裸中年男性。余分な重量は帰還の妨げになるので、佐々木は冷たい方程式に準じて船倉を真空にした。
一方、銀河深淵に凝った降着円盤の安定周期軌道上に、小さな岩塊が浮かんでいた。
その内部にはさらに小さな甲虫型生命が知的文明を営んでいる。
そのうちの一匹、いささか歳を経た
「この竿の垂れ具合で幾何学を理解した!わしの白熱光を見よ!」
彼に向かって投じられた一本の外骨格は、次の瞬間宇宙船に変じ……。
完
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