ボクとフー太の学園捜査部

九戸政景

第1話

 よく晴れた日の朝、窓から差し込んできた光で目が覚めてボクはゆっくり目を開けた。目の前ではボクの弟のフー太がまだすやすやと眠っていて、その丸まった小さな体とあどけない寝顔はやっぱり可愛いなと思う。



「でも、そろそろ起こさないといけないね。フー太、朝だから起きて」

「んー……?」



 フー太は眠たそうに言うと、クリクリとした小さな目を開けた。茶色のフワフワとした毛があちらこちらにぴょんぴょん跳ねてるのはなんだか寝癖みたいだ。



友貴ゆうき……おはようさん……」

「うん、おはよう。昨日の夜もぐっすり寝てたね」

「まあな……ベッドの上が寝心地がいいのはもちろんだが、やっぱ友貴の近くだと安心して寝られるんだよ」



 フー太がにこにこ笑いながら言う。フー太とは赤ちゃんの頃から一緒に寝ているからボクもフー太と一緒の方が安心する。寝返りを打つとのし掛かってしまいそうになるのは少し怖いけれど。



「とりあえずご飯を食べに行こう。フー太、今日は肩と頭のどっちに乗る?」

「そうだなぁ……それなら頭だな」

「わかった。それじゃあ手に乗って」



 フー太は頷いてから差し出した手の上に乗り、そのまま手を頭へ持っていくと、頭のてっぺんにちょこんと乗った。



「やっぱりこの眺めはいいなあ。まるで空飛んでるみたいで気持ちがいいや」

「フー太だって空飛べるんじゃないの?」



 それを聞いたフー太はからから笑う。



「なーに言ってんだよ、友貴。オレは“人間”だぜ? ちょいと毛がふさふさでちっこいだけで友貴と同じ人間なんだから飛べるわけないだろ」

「うーん、そうなのかな。まあでも、いつか飛べたらいいなあ。空を飛ぶのは絶対に気持ちがいいから」

「へへ、ちげぇねぇ。そん時は一緒に色々なとこ飛んで旅でもしたいな」



 フー太の言葉に頷きながら部屋を出る。怪談を降りてリビングに行くとそこには父さんと母さんの姿があった。



「父さん、母さん、おはよ」

「父ちゃん、母ちゃん、おはようさん」



 フー太と一緒におはようを言うと、二人はボク達の方を見ながら優しく笑ってくれた。



「おはよう、二人とも。もう少しで朝ごはん出来ちゃうから待っててね」

「フー太は今日は頭の上か。そんなに高いところにいて怖くないのか?」

「まーったく怖くねぇや。高いとこから色々見れるからむしろ楽しいぜ、父ちゃん」



 フー太の返事に父さんは笑顔で頷く。そしていつもの席、父さんの向かいの席に座った後にフー太をテーブルの上に降ろした。



「今日のご飯も楽しみだね」

「だな。しっかし、オレはどうしてこんなにも体が小さいのかね? 世の中には体が小さい奴がごまんといるとは思うが、それでも10歳にもなってこんなに体が小さい奴はオレくらいじゃないのか?」



 フー太が心から不思議そうに首をかしげる。



「そうかもね。でも、フー太の事を肩や頭に乗せたり出来るし、ボクは今のフー太の小ささはいいと思うよ。可愛いし、いっぱい色々なところに行けるからね」

「それはたしかにな。オレも友貴と一緒に色々なとこ行けるのは楽しいぜ。けど、オレも男だからな。将来は友貴よりもでっかくなりてぇ。体もそうだが、器もおっきな男にな」

「うん、楽しみにしてるね」



 小さな足で立ちながら胸を張るフー太の可愛らしい姿を見ながら答えていると、テーブルの上に朝ごはんが並び始めた。こんがり焼けたトーストに色とりどりの野菜のサラダ、いい匂いのハムエッグに甘い匂いのコーンスープ。うん、今日も本当に美味しそうだ。



「母さん、ありがとう」

「母ちゃん、今日の朝ごはんも美味そうだ。やっぱり母ちゃんは天才だな!」

「ふふ、ありがとう。それじゃあ食べましょうか」



 その言葉に頷いてからボク達はいただきますをしてから食べ始めた。よく父さんがお酒を飲みながら身体に染み渡るっていうけれど、ボクやフー太からすれば日々のご飯が身体に染み渡って、一日の元気に変わるのだ。



「そういえば今日は始業式だし、ちょっと気を引き締めていかないとかな」

「ん、なんでだ? いつも通りにのんびりでいいんじゃないか?」

「だって、今日からボクは5年生だよ。これでも高学年なんだからやっぱり年下の子達に恥ずかしいところは見せられないよ」



 高学年といえば、年下の子達から見ればあこがれの的。そんな高学年になるボクがあまりにもダメなところを見せたら笑われちゃう。今日からビシッとしていかないと。



「そんなもんかねぇ。まあでも、そういう事ならオレも手伝うぜ。オレは友貴の弟だからな。弟として家族のために一肌脱ごうじゃねぇか」

「うん、ありがとう。そうと決まれば遅れない内に早く行かないと」

「だな。うっし、ガンガン食べてガンガン準備していこうぜ!」



 フー太と一緒にご飯をもりもり食べ始める。食べ終わった後に昨日の夜の内に済ませていたランドセルの中を確認して、大丈夫だってなった後にボクはフー太を頭に乗せてから下に降りた。



「父さん、母さん、いってきまーす!」

「父ちゃん、母ちゃん、行ってくるぜ!」



 父さん達がそれに答えてくれた後、ボク達は外に出た。新学期の始まりにふさわしいその青空にボクも気分がよくなる。



「いい気持ちだね、フー太」

「だな。こんな天気だったらのんびり日向ぼっこでもしたいもんだぜ」

「それもいいけど、やっぱり張り切っていかないと」



 両手をぎゅっと握りながら言っていた時だった。



「おや、おはよう。キミ達は今日も元気だね」

「あ、校長先生。おはようございます」

「校長、おはようさん」



 後ろから声をかけてくれたのは、ボク達が通う文郷ふみさと学園の校長先生。近所に住んでいて、いつも優しくにこにこしている人だ。



「今日から新学期なので高学年らしくビシッといこうと思ったんです」

「友貴の張り切り具合はほんとにすごいぜ。まあ家族としてそういうとこを見れるのもいいことだけどな」

「そうだね。そうだ、キミ達に後でお願いしたい事があるから、放課後に校長室まで来てくれるかな?」



 それを聞いてボクとフー太で顔を見合わせる。校長先生のお願い事ってなんなんだろう。



「わかりました。放課後に校長室に行きますね。フー太も迎えに行かないとですし」

「今日も世話になるぜ、校長」

「ああ、今日もよろしくね」



 そしてボク達は校長先生と話をしながら学校に向けて歩き始めた。10分くらいかけて学校に着くと、他の子達も校長先生にあいさつをし始めた。今日もみんな元気そうだ。



「やっぱり元気なのはいいことだね」

「ちげぇねぇ。元気じゃねぇとご飯も美味く食べられねぇからな」

「本当にフー太ってご飯大好きだよね」



 クスクス笑った後にボクはフー太を校長先生にお願いしてから昇降口に貼られていたクラス割通りに教室に向かった。新しい教室は、5-A。三階の端っこみたいだ。ワクワクしながら教室に入ると、4年生の時に一緒だった子も何人もいてボクは安心した。



「みんな、おはよう」

「お、友貴じゃん。お前もここの教室なんだな」

「うん。また1年よろしくね」



 みんなが笑いながら頷いていた時、クラスメートの男の子の一人が目をキラキラさせながら話しかけてきた。



「知ってるか? 今日、てんこーせーが来るんだってよ!」

「転校生?」

「おう! 可愛い子だったらいいよなー」



 男の子達の中では転校生は女の子だと決まったみたいだ。ワクワクしながら始業の時間を待つ事数分、一人の先生が教室に入ってきた。きれいな顔の“男の子”を連れて。



「みなさん、おはようございます。今日から新学期ですが、ここでみんなの新しいお友だちを紹介します。自己紹介してくれるかな?」

「はい」



 その子は落ち着いた声で答えると、白いチョークを持って名前を黒板に書いた。そして書き終えると、ボク達の方を見ながら口を開いた。



白野しろの龍臣たつおみです。これからよろしくお願いします」

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ボクとフー太の学園捜査部 九戸政景 @2012712

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