第49話

第49話



「……あぢぃ」


「……あっちーわね」


 

 夏休みも始まり早5日。

 

 城西高校のグラウンドや体育館からは練習中であろう部活動生たちの掛け声が聞こえてくる。太陽は燦々さんさんと輝き、強い日照りが信じられないほどの暑さを作り出す中、本当によくやるものだ。


 横目に見えるグラウンドからは砂を蹴る音、金属製のバットに硬式ボールが当たる音。そしてグラウンドとは反対方向に位置する体育館からは床にボールを着く音、バッシュの止まる音、ブザーの鳴る音……。


 見えてなくとも聞こえてくる様々な音に、俺の生涯かかわり合うことの無いような青春を、半袖のシャツから露出されている引きこもり生活によって獲得した男子にしては白すぎる肌に感じながら歩いている。


 隣を歩くレインを見ると、いつもの余裕そうな笑みも凛とした雰囲気も、流石にこの暑さの前では太刀打ちできないらしく、額に汗をうかべた顔を手で仰ぎ、日陰を見つけてはその下に駆け、「ちっとも涼しくないわ……」などと言いながら俺の元に帰ってくるというなんとも無駄な行為を何度も繰り返していた。


 その無駄な往復が余計に汗をかく要因になっているんだぞとツッコむ気力すら沸かせないのだから、本当に最近の日本の夏の暑さは異常であると言わざるを得ない。


 20℃後半で暑いなどと騒いでいたいたあの頃が懐かしい……。本当に。



「……で、私たちはなんで夏休みに学校に来ているの?」


「いや、呼び出されたのは俺だけだったはずなのになんでレインは着いてきてるんだ?」



 メールが届いたのはつい先日。春の城西祭の際、トラブル対策部の部長として活動していた関係で連絡先を交換していたとある人物から呼び出しを食らったのだ。


 夏休みは1歩も外を出歩かないことを目標にしていたのに、まさか1週間経たぬうちにその目標が叶わぬものとなってしまうとは。


 

「着いてきたら何か悪かったのかしら?」


「いや、そんなことはないけど……暑いの苦手だろ? 大丈夫なのかよ」


「あら? 心配してくれてたのね。ありがとう、でも大丈夫よ。レンと一緒なら例えば火の中水の中草の中森の中なんだから!」


「さいですか……」



 俺も決して暑さには強いという訳では無いが、どうやらレインはそんな俺よりも暑さには弱いらしく、エアコンの効いていない空間ではよろよろ歩くもんだからこの酷暑は流石に心配になる。


 なんだかんだ言いつつもいつも俺を守ってくれているレインにわざわざ苦手な外はなるべく歩かせたくなかったが、ここまで彼女に言わせておいて無視するというのも俺にはできない。


 ……用事が早く終わらせられるものだと良いのだが。


 いくら家から城西高校まで歩いてこられる距離とはいえ、20分ほどこの暑さの中外を歩いていると汗だくになってしまった。シャツの中までぐっしょり濡れてしまっていて気持ちが悪い。


 下駄箱に着いた俺はスニーカーを脱ぎ、自分の番号が振られている場所へと靴を入れる。ちなみにレインは俺と同じ川崎を名乗っていたが、転校生であるが故に出席番号は一番最後の方へ振り分けられ、当然下駄箱の位置も俺と離れた場所へとなっている。


 つまりレインの下駄箱は俺よりも数メートルだけ正面玄関に近い位置にあるということであり、俺よりも早く靴を脱ぎ、それを仕舞い終えたレインは俺の後ろをそのまま通りすぎ、下駄箱から校内へ入る際にある、小さな段差に腰掛け深くため息をつく。

 

 

「なんか来るだけで疲れたわね」



 手ぬぐいを取り出し額の汗を拭うレインの隣に腰掛け、俺もハンドタオルをバックから取り出そうと隣に置いたバックのチャックを開け始める。

 


「そうだな。もう一日分の体力は使い果たしたわ。帰るか」


「ええ。そうしましょう」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」



 学校へと着いた早々に帰宅準備を始めるため立ちあろうとした俺たちは、何故か下駄箱から見える正面階段から駆け下りてくる足音の主に呼び止められ、立ち上がるために少し浮かした腰を再び段差へと掛ける。


 

「「??」」

 

「来たそばで帰るとかありえないですからふつう!」



 足音の主は息を切らしながら階段を駆け下りてくると、そのままの勢いで俺とレインを指さしながら指摘してくる。


 階段を急いで駆け下りてきた声の主は、ポニテ先輩の後輩であり、黒い布の下着でおなじみの天宿チナツちゃんだ。

 

 

「でももう疲れちゃったので。流石にこの暑さは引きこもりに応える」

 

「ええ、エアコンの効いた家でアイスでも食べながらゴロゴロしてたいわ。はっきりいってこの暑さは人が活動していい気温じゃないと思うの。みんな猫になってゴロゴロしてればいいと思うの。」

 

「いや猫は毛皮が暑くないか?」

 

「レンは衣替えが人間だけの特権だと思っているのかしら」

 


 その衣替えとやらを後でじっくり見せてもらうとして。


 

「久しぶりだな。チナツちゃん」


「えぇ。その後調子はどうかしら? あの子とは上手くやっているの?」


「あ、はい! その節はありがとうございました! あの時先輩たちが背中を押してくれたからこそです! ほんとに感謝してもしきれないです」



 俺とレインは並んで段差に腰掛けたまま、階段から駆け下りてきたチナツちゃんに顔だけその方向に向け、彼女を見上げる形で挨拶をした。ちなみに今日はレッドワイン色の布を身につけていた。ありがとうございます。


 

「うんうん。それでどうだ? もう手は繋いちゃったりしちゃったりしたのか?」


「手は……先日のデートで初めて繋げました!」


「きゃー! いいわ! 甘酸っぱい青春の話はHPがモリモリ回復していくわね!」


「え、えへへ……」


 

くだんの活動で連絡先を交換した後、特に音沙汰がなかったので少しばかり心配していたが、便りがないのは良い便りとはよく言ったものだな。


 久しぶりに会った後輩の順風満帆な青春も聞けたし、そろそろ帰っても大丈夫だろ。


 恋バナをしながら照れているチナツちゃんのほっぺをいつの間にか復活したレインが「このこの〜」とか言いながら突っついているのを横目に、再び自身の下足入れへと向かい始める。


 

「レイン。そろそろ帰るぞ」


「え? あ、そうね。帰りましょう。じゃあねチナツちゃん。また何かあったらいつでも相談乗るから!」


「はい! ありがとうございますレイン先輩! レン先輩もまた機会があれば!」



 ペコっと一礼した後、笑顔で手を振ってくるチナツちゃんに対し、振り向くことなく手を振る。俺とレインは清々しい気分と共に、再び20分ほどかかる帰路に着こうと正面玄関を出――!


 

「……ん? ーーってあーーー! だから帰っちゃダメですって二人とも!!」



 ようとした所で何故かまたチナツちゃんに呼び止められてしまった。


 ……。


 しまった……!

 

 

 

 

 


 

 

 


 

 

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ゲームの世界から飛び出してきた俺の創ったキャラにプロポーズしたら即答でOK貰えちゃった件 赤月 りお @Rio270208

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