終章「柚香る風

 明治二十五年、初秋。

 改修された桂家新邸の庭。

 柚葉は白無垢を軽く着崩し、縁側で結び直す帯を眺めていた。

「旅立ちの準備、できたか?」

 背後から声がかかり、蒼翔が現れる。

 彼の装束は、“風と樹の守り手”の証を縫い込んだ外套――宮廷陰陽部から正式に授けられた、新たな役目の印だった。

「はい。今日は“夫婦”として、初めての仕事ですから」

 ふたりは並んで庭に出る。

 これから、ふたりは“契約夫婦”ではなく、

“誓約の守り手”として、全国の結界診断と霊鎮めを行う旅に出る。

「風が……いい匂いですね」

「桂の香、だな」

 蒼翔が軽く手を伸ばす。

「なあ柚葉。これから先、いろんな土地で、いろんな結界と向き合うことになる。でもどこに行っても、お前がいれば、俺は“根”を張れる気がする」

「私も、あなたがいれば、怖くありません。私の“風”になってください」

 ふたりはそっと、手をつないだ。

 そして――

「――桂の香に乗って、蒼い風は新たな地平へ吹き抜けた。」

 物語は、ここに完結する。

 けれど、ふたりの旅路はまだ始まったばかりだった。

【了】





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双魂の契り、風は桂に宿る mynameis愛 @mynameisai

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