祖父の日記

ウイング神風

祖父の日記

 佐藤裕二には、祖父がいる。東京から離れた場所、田舎という場所に住んでいたのだ。そんな田舎に住んでいる祖父が他界した、という情報を聞いた裕二は、急いで、田舎に移動することになる。


「くそ、なんで、こんな暑い時期に田舎に戻らなければいけないだよ」


 と、愚痴を吐く裕二だった。

 裕二はこの季節が好きではない。

 とくに田舎の夏は好きではなかったのだ。

 だって、蒸し暑いし、虫も沸くし、汗で身体がベトベトになるからだ。

 しかし、帰らなければ行けないのが皮肉なのだ。

 なにせ、祖父は、裕二に対して偉大な遺産があると、父が言っていたのだ。

 祖父の家に到着すると、裕二はダイニングルームを目指す。

 そこには、もう使われていない食器が綺麗においてある。

 きっと、叔母がこの部屋を整理してくれたのだろう。


「相変わらず、ここは変わらないなあ」


 10年前と変わらない風景に、懐かしさを思い出す。

 昔は、姉とここでスイカを一緒に食べた記憶が蘇る。

 それは、甘く、ジューシーなスイカだったのだ。

 近所からいただくスイカは贅沢品になぞらえるほど美味しかった。

 足を伸ばし、今度は書室に移動する。

 そこには、椅子と本棚がざっと並んでいる部屋があった。

 祖父は読書好きであり、いろんな本をここに収納するようにしてある。

 たまには、昔話を聞かせたりとかしていることもあるのだ。いまでは懐かしい話でしかない。


「おいおい。こんなところに、置いて。片付け忘れか?」


 と、裕二はとある本に目をつける。

 それは机の上にぽんとおいてある一冊の本だ。

 それを手に取り、開いてみると、一枚の写真が本からこぼれ落ちるようにぽたんと、床に落ちた。

 裕二は慌てて、その写真を手に取ると、そこには意外な物が写っていた。


 ……裕二と祖父の写真だった。


 小さい頃の裕二と祖父が並んで、写っている写真。

 十年前のデジカメで撮った写真だと、すぐにわかった。


「懐かしいな。この頃の俺はおじいちゃん大好き子だったよな」

 

 と、裕二はそうつぶやきながら、写真をシャツのポケットの中にしまう。

 それと、その本を開いてみると、それは日記だとわかる。

 この数年間の異常を言葉として記録していることがわかった。

 気になった裕二はその日記を読み漁る。

 それは、この家の出来事を繊細に書いてあった。

 ……今日は、なにがあったのか。近所がお米を運んできてくれた。近所の幼稚園の朝の準備体操に参加した。図書館で本を借りた。そんな日常茶飯事のことを描いている。

 そして、俺は最後のページを開く。

 そこには、おじいちゃんの最後の遺言が書いてあった。


「この本を孫の裕二に渡してください。私のかわいい孫。私の宝物はこの裕二に渡してください。金銭なものはありませんが、この書斎に詰まっている本だけが、彼に渡してほしいのです。そして、僕の人生はすばらしかった、とみんなに言って下さい。それが私の意思でもあり、人生でした」


 その言葉を読むと、自然に涙が流れ出る。


 ……そうか、おじいちゃんは幸せだったのか。


 なら、悔いのないような人生を送ったのだろう。

 俺は残りの日記、空白になっているところを、ぱらっと、開いてみる。

 そこには、なにもない空白のページがあった。

 このまま空白のページになるのか、と思いきや、最後の日記のページには文字が書かれていた。

 それは太字で、生きているように活き活きとした大きな字。

 裕二はその言葉を忘れられなくなった。


『幸福に生きよ!』


 裕二はその言葉を読むと、日記を閉じる。

 涙腺を拭うと、他の部屋を観察する。

 今日は、仕事が多そうだ。

 亡き祖父の弔い作業は多そうでもある。

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