エピローグ

 あれから数日後の放課後。旧校舎の秘密基地には、以前の重苦しい空気はもうなかった。持ち込まれたヨギボーやテーブル、そして窓から差し込む西日が、その空間を三人の少女たちの穏やかな時間で満たしている。


「ふぅ……。雫ちゃんも入ってくれることになったし、これでやっと4人。同好会として、正式に申請できるね」


 ヨギボーに深く身体を沈め、ましろが満足そうに天井を仰いだ。その声には、安堵の色が滲んでいる。


「うん! 今は魔法省の会議で来られないみたいだけど、無事に入ってくれて、本当によかった……!」


 結衣もまた、自身の計画が達成できたことに、満面の笑みを浮かべていた。


「それで、るりっち」


 ましろは、隣でココアを飲んでいた瑠璃に視線を移す。


「結局、魔法少女として正式に復帰するってことで、いいんだよね?」


 その問いに、瑠璃は魔法省での長官とのやり取りを思い出していた。


「はい。長官からは、こう言われました。『零式封印を自力で破った魔法少女など前代未聞だ。私の耳を疑った』って。それで……『今この場で死ぬか、魔法少女として自身に課された責務を全うするか、選びなさい』と」

「実質、一択じゃん。人権って言葉、知ってるのかな」


 ましろが、呆れたように軽口を叩く。


 瑠璃は、ふっと微笑んだ。自分の中に眠る、あの青い力。使い方を誤れば、世界を壊しかねないほどの奔流。けれど、その力は、目の前で死にかけた一人の少女を救うこともできたのだ。


 それならもう、迷いはない。自分にできることがあるのなら、やってみたい。それが、瑠璃の出した答えだった。


「でも、私、気づいたんです。この力は、誰かを傷つけるためだけじゃなく、困っている人を助けるためにも使えるんだって」

「いい心がけね!」


 結衣が、瑠璃の手をぎゅっと握る。


「よーし! そうと決まれば、私もプロデューサー兼サポーターとして、もっともっと頑張っちゃうからね!」


 結衣が自信満々に胸を張った、その時だった。

 瑠璃のスマートフォンから、電子的な呼び出し音が響く。魔法省からの、公的な通信だった。


『こちらオペレーター。コード:サファイア、応答できますか』

「はい、スターライトサファイア、感度良好です!」

『都内A地区のショッピングモールにて、変異体事変発生。レベルはC。現在、最も近くにいる公認魔法少女はあなたです。出動をお願いできますか』

「はい! 直ちに現場へ向かいます!」


 瑠璃は力強く頷くと、隣にいる二人の仲間を、信頼の眼差しで見つめた。


「結衣先輩、ましろちゃん、サポートお願いします!」

「了解!」

「任せて」


 二人の頼もしい返事を聞き、瑠璃は立ち上がる。


「スピカ!行くよ!」

「ええ!瑠璃!」


 青い光が、放課後の教室を鮮やかに染め上げる。再びその身に星屑の輝きを纏った魔法少女は、窓を開け放つと、迷いなく空へと舞い上がった。

 秘密基地から見守る二人の仲間という、新たな光を背に受けて。

 彼女たちの物語は、今、本当の意味で始まったばかりだ。

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星屑サファイアは夜を駆ける ~私、実は超才能の塊らしいけど、魔法は壊滅的に下手!? だけど、仲間とならこの日常を守れます!~ さんてら @Santera

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