巡りゆく地平を歩いて

高伊志りく

エルフ

タイムマシンのドアが閉まる。

ごうごうと音を立てて、分厚い金属の板が降りると、そこに取り付けられた小さな窓から咲良さくらが見えた。

咲良は笑顔で手を振っている。さっきまであんなにも泣いていたのに。


この機械で、私は1980年に行くことになる。

咲良の代わりに咲良の父、日下部騰真くさかべとうまに会うために。


私は、ドアを力任せに叩いた。

どうして、という感情とこれから咲良の身に起こることを考えて、身をもだえる。

しかし、分厚いドアは頑として動かない。

咲良、咲良と必死に呼ぶ私の声は、きっとあちらには届いていないのだろう。

小さな窓に咲良が近づいて、何かを話した。

もちろん何を言っているのかは聞き取れなかったが、その口の動きから何を言っているのかは分かった。

咲良は笑顔のままだったが、その瞳からはまた涙がこぼれ落ちていた。

気づけば私も泣いていた。

そうして、淡い光が私を包んで、ふっと意識が遠のいた。


次に目を覚ました時、私は暗い木造の校舎の中にいた。

月明かりがぼんやりとその教室を照らしており、床の冷たさがペタリを地べたに座っていた私の素足を通して伝わってくる。

私は驚いてあたりを見回した。

さきほどまで乗っていたはずのタイムマシンは跡形もない。

今までほとんど嗅いだことのない、ほのかな木の香りだけがあたりに充満していた。


成功した。


私はすぐに理解した。跳躍は成功した。

でも、だから、もう咲良はいない。

つい先ほどまでいた、65年後に彼女は死んだ。

私の代わりに。

次々と湧き上がってくる現実に、私の頭はすぐに容量を超える。

気が付けば私は泣き叫んでいた。

生まれて初めて、大きく、激しく。

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巡りゆく地平を歩いて 高伊志りく @takaishi_riku

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