麦の穂の温もり亭

風待 結

第1話



夕暮れの鐘が鳴り響き、石畳の道に橙色の光が差し込む頃、ユートはいつものように酒場「麦の穂の温もり亭」の暖簾をくぐった。


「こんばんは、マリアさん。今日も賑わってますね」


「あら、ユート。いらっしゃい。奥のいつもの席、空いてるわよ」


朗らかな笑顔で迎えてくれるのは、酒場の女将マリアだ。彼女の作る料理はどれも絶品で、特にユートはここの「田舎風ポトフ」が大好きだった。


奥の席に着くと、ユートは早速マリアにポトフと麦酒を注文した。


「今日は少し冷えますね。温かいポトフが恋しいです」


「すぐに用意するわ。今日は特別に、隠し味に蜂蜜を少し入れてみたの。楽しみにしてて」


マリアの言葉に、ユートは目を輝かせた。蜂蜜入りのポトフ⋯想像するだけでお腹が鳴りそうだ。


しばらくして、湯気を立てるポトフが運ばれてきた。木の器にたっぷり盛られたポトフは、豚肉、じゃがいも、人参、玉ねぎ、それに大きなソーセージがゴロゴロと入っている。香草の香りが食欲をそそる。


「いただきます」


ユートはスプーンでスープを一口飲んだ。


「⋯!美味しい!蜂蜜の優しい甘さが、野菜の旨味を引き立ててますね。それに、このソーセージ⋯肉汁がじゅわっと溢れて、たまりません!」


「気に入ってくれたみたいで嬉しいわ。よかったら、作り方を教えてあげるわよ。ユートなら、きっと美味しいポトフが作れると思うわ」


ユートは目を丸くした。マリアの料理は門外不出だと聞いていたからだ。


「いいんですか?ぜひ教えてください!」


マリアは微笑み、ユートにゆっくりとポトフのレシピを教えてくれた。


◁マリアの田舎風ポトフ レシピ▷


◁材料(2人分)▷


* 豚バラ肉 (塊):200g

* じゃがいも: 2個 (中サイズ)

* 人参: 1本

* 玉ねぎ: 1個

* ソーセージ: 2本 (粗挽きがおすすめ)

* キャベツ: 1/4個

* ニンニク: 1かけ

* ローリエ: 1枚

* 水: 600ml

* コンソメ: 小さじ2

* 塩: 小さじ1/2

* 胡椒: 少々

* 蜂蜜: 小さじ1

* オリーブオイル: 大さじ1

* パセリ (みじん切り): 適量


◁作り方▷


1. 豚バラ肉は3cm角に切る。じゃがいも、人参は皮をむいて乱切りにする。玉ねぎはくし切りにする。キャベツはざく切りにする。ニンニクは包丁の腹で潰す。

2. 鍋にオリーブオイル、ニンニクを入れて弱火で熱し、香りが立ったら豚バラ肉を加えて焼き色がつくまで炒める。

3. じゃがいも、人参、玉ねぎを加えて軽く炒め、水、コンソメ、ローリエを加えて沸騰させる。

4. アクを取り除き、弱火にして30分ほど煮込む。

5. ソーセージ、キャベツを加え、さらに10分ほど煮込む。

6. 塩、胡椒で味を調え、蜂蜜を加えて混ぜる。

7. 器に盛り付け、パセリを散らして完成。


ユートはマリアから教わったレシピを、丁寧にノートに書き写した。


「ありがとうございます、マリアさん!明日、早速作ってみます!」


「あら、楽しみね。もし何か分からないことがあったら、いつでも聞きに来てちょうだい」


ユートはポトフをゆっくりと味わいながら、マリアとの会話を楽しんだ。酒場には、人々の笑い声と暖炉の火の温もり、そして何よりも美味しい料理があった。ユートにとって、この「麦の穂の温もり亭」は、かけがえのない場所だった。


ポトフを完食し、麦酒を飲み干すと、ユートはマリアに挨拶をして酒場を後にした。


「ごちそうさまでした。また明日来ます」


「ええ、またね、ユート」


夜空には満月が輝き、ユートの足元を優しく照らしていた。彼は、明日作るポトフのことを考えながら、家路を急いだ。きっと、マリアのような美味しいポトフが作れるだろう。そして、いつか誰かを温かい気持ちにできるような、そんな料理人になりたいと、ユートは思った。

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