第6話 お客様が来ました
カラン。
「いらっしゃいませ」
ついに始まった、初めてのお仕事。私はなんだか
おえええ。
胃のあたりが、ぎゅうってする。
初来店されたのは、二人の女の人。
お客様が、にこやかに入って来たので、私はかしこまって、背筋をピンとさせた。
優しそうで良かった。
えっとまずは、私は笑顔を向ける。これが
「お二人様のご
どや顔で言いきり、私は、これでいいんだよね。っと椿君に習ったばかりの
でも顔はできても、緊張しすぎて、体がうまく動いてくれなかった。
私はかちこちに、体を
うしろのお客様が「
「コホン」
にやついている私を見て、椿君が
おっと、いけない。集中。集中。
お客様を席に案内すると、とりあえずは、私の仕事はいったん終了。すぐに椿君が、お
うん。椿君、
「ご注文票です。今日の
私が椿君の働きっぷりに見とれていると、聞いたこともない
なんじゃそりゃ。風呂にランタンでも浮かべるの?
でも、お
ふやけそうな名前のお
「ご注文は、アッサムティーと、アップルティーですね」
おっと。考えごとをしていた私は、椿君の声に、心が
「
「はーい」
紅茶の注文が決まったと言うことは。
ふふふ。
私は
私は
大きな
えっと、アッサムティーとアップルティーは……。
うう、届かない!
わずかに身長が足りず、私はつま先立ちになって、プルプルとした。
「はい。これでいい?」
すると、すっ。と目の前に紅茶と、大きな手がでてきた。兄さんが紅茶を取ってくれて、私は、ほっと
「ありがとう」
そこに
「きゃっ」
客席のほうから、嬉しそうな声があがった。
ん? なんだろう。
私は首をひねって、客席を向くと、お客様の顔が、ほんのりピンクになっていた。お客様の目線は私……を通り
兄さんだった。
兄さんは気がついて、客席に向かって、笑顔を振りまくった。ますます、お客様の顔が赤くなる。
おおーい。ここは、ただのカフェだよね。
私はあきれた。
だけど、なるほど、兄さんは
私は
うーん。カッコイイからな。AIだけど。
「
私の手が止まっているのを見つけて、椿君の
ああ。はいはい。わかっていますとも。
私は紅茶作りを
グツグツと
カップとティーポットを温めないといけないんのだ。
温まったら、お湯を
私は紅茶の缶を持って、ぱかりと
(うん。いい匂い)
茶葉の香りがして、私はうっとりと鼻を、すんすんさせた。
えっと、紅茶、一杯分の量は、だいたい三グラムだから、まあ、ティースプーン中盛り一杯が
ふふ。お母さんに習ったもんね。
私は茶葉をスプーンですくって 温められたティーポットに、
湯気から、さらに、紅茶のいい香りが広がって、私は
よっしゃ、
「はい、椿君」
砂時計をひっくり返すと、私はティーカップとティーポットをお
椿君は
お皿には香ばしそうな
あれか。あれが風呂、ランタン(フロランタン)ってやつか。
つい、じっとお菓子を見ていると、椿君は、お客の席へ紅茶と
いいなぁ。食べたいな。私は
「
そうお客様に言うと、椿君は私の
──うわ。なんだか私の
紅茶の売店員だった母には、みっちり、紅茶の入れかたを習っているけど、こうして、お客に出すのは初めて。
お客様が、ズズっと紅茶を飲む。
「あれ」
お客様は、きょとんとしていた。
うわ。なになに。どうしよう。
私は心配になり、あわあわと助けを求めるように、椿君を見た。
「
「……」
そうだ。ここの紅茶は椿君が入れてるんだった。あの、ダージリンの、味と香りを無くす、クソまずい紅茶。
私は目を細めて椿君を見る。
うん。あれと比べたら
よく、お客様が、なんどもカフェに来るものだな。
と、思っていると、うしろからキラキラと光りが、差し込んでくる気がして、振り返る。
兄さんが、
私は白い目をする。なるほど、あの笑顔が目当てで、不味い紅茶でも、カフェに来ちゃうんだね。
椿君の横顔を見つめると、唇の
わかっててやってるな。
カラン。
私が
よしよし、
「檸檬君。アプリコットティー」
「はい」
「檸檬君。桃ティー」
「はーい」
「檸檬君、マスカットティー」
「はぁい」
「檸檬君、檸檬君、檸檬君」
「はーい。はい、はい。はい、はい、はい」
うおぉぉぉぉぉぉぉ。
「檸檬君」
「……はーい」
なんだろう。
「
午後三時。ようやく一時間が
こっちは、初めてのお仕事なんだ。
「はい。お疲れ様。残り物だけど、フロランタンだよ。食べるだろう?」
そう言って
「え。風呂、ランタン。食べる。やったぁ」
あの
なにこれ。ほろ苦くて甘い、アーモンドが口に広がる。やば、ほっぺたが落ちそう。目から
「美味しい。疲れがとれる」
「ふふ。仕事は、まだ始まったばかりだぞ。明日もあるんだ」
「ううううう。頑張る」
「その
まるで、
お仕事って大変。
お父さんも、お母さんも、いつもこんなに大変な思いをしてたんだな。私は
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