第3話 ガーデンローズ
その男の子は、
さらさらの黒い
うわ。かっちょいい子が目の前にいるよ。
全学年のなかにだって、こんな顔の良い子、ぜったい、いないと思う。
私より頭一個分くらい背が高いけど、小学生だよね。
私が目をまん丸にして、男の子を
「
私は、はっとする。
いかん。見とれてる場合ではないぞ。
割ってしまった水晶のことを思いだし、カチーンっと固まって、
「なななななな、ないです」
「さぁ、立って」
「ははははははは、はい」
「ふふ。どもり過ぎだよ」
だって。怒られるよね。
私の手が、少し
「ごめんなさい。私……割っちゃって……」
深く頭を下げて
「うん。どうしてここに?」
「えっと。バラの匂いがして、それで気になって入っちゃったの」
「ふーん。どこのお
「おじょ……橋の向こうから来たの」
「そう。なんにしても
なんか、ちょっと変わった
(よかった。怒ってない)
ものすごく、怒られるかと思った。
だって、家で食器を割ったときなんて、鬼の様なお顔で、お母さんは怒るんだ。
私は安心して、にこりと
「ところで、ここ、立ち入り禁止って書いてあったよね。漢字読めなかった?」
ぎく。
男の子は痛いところを突いてきた。
あれれ、心なしか目が笑ってないような……。
「あとね。君が割った水晶」
え、なに? なんか雲行きが……。
どきどきと私の
「ものすごーく、
えええええ。
「
男の子は笑ってる。とても優しく。
それなのに、どんどん怖く感じてきた。
ねぇ、これって私は責められてる? 私が悪いんだけど。悪いんだけど、その笑顔、止めて欲しい。
”笑顔の男の子”の銅像があったら、こんな感じかもしれない。冷めた目。
「値段? うん。高いよ」
私は、たらたらと冷や汗を流した。
「いかほどで」
なぜか、お
二千円?
よしよし、それならお年玉の残りがあるはず。と思っていると
「二十万」
「に、にじゅうまん!」
私は、ものすごく驚いて、目玉が、ぎょぎょっと飛び出しそうになった。
なんですと。二十万!
そんな大金を見たことも触ったこともない。見たことがあるのは、せいぜい、一万円ぐらい。それでも手が
私はあわあわとして目を回した。
うそだぁ。
言葉を
「それも、この世では買えない」
「はい?」
(この世ではってなに? この人、私をからかってるの)
「ああ、ほら
わけのわからない空を指して男の子は言う。私の頬がヒクついた。
「ほころんでって?」
「
「悪いものって?」
「感じない。良からぬ
さっき見ていた青いバラが、しわしわになって、茶色っぽくなっていた。
いやいやいやいや。たまたまでしょう。そりゃあ、なんか、ぞっとするけど……それに悪いものって……なに?
この人、なにかヤバイ
うち、
男の子の変な言葉に、私の頭のなかは、自転車をフル回転させるみたいな勢いで、回した。
それよりお金……どうしよう。二十万なんて
二十万ってどうやって、集めればいいの。
二十万って紙に書いて渡すのはダメだよね。
どうにかして、この場をさけたい。でも、なにも
お母さん、お父さん。ごめんなさい。お金がないよ。ええーん。二人には言えないよう。お
なんて考えていると、はあっと男の子は、ためいきをした。
「君では払えないよね」
コクコクと私は首を上下に振った。
「両親に相談するしかないね」
男の子に言われ、私はお母さんの
私は男の子の
「あーうー。あーうー」
まるで弟の大樹のような声をあげてしまった。そのまま涙目で男の子を見つめた。
「両親に知らせたくないの?」
知られたくない。怒られる。殺される。
実際は殺されないのだけど、気持ちがそんな感じなのだ。私は、なんども、うなずいた。
それに、お父さんとお母さんに
私の
「君。紅茶を入れれる」
ん。紅茶?
不思議に思いながらも、私は赤べこのように頭を縦に振って、うなずいた。
「入れれる。うん。紅茶好きだし、お母さんが紅茶の売店員さんだったから、美味しい紅茶の入れかた、習ってるよ」
「ほう。なら、お金を払う代わりに、ここで働きなさい」
「へっ」
「君、ここの
「えええええええええええ」
男の子は天使のような
私が働くのここで?
小学生だよ?
空は青空。バラの花びらが、
こうして私は、夏休み限定で、ガーデンローズで働くことになった。
マジかぁ……。
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