無能という名の怪物

第1話

これは、ある無能な怪物の物語




僕は普通の人間です。

特別な人になりたい、チートスキルがほしい、

そんなことを願っていた普通の人間です。


好きなことが職業にできないかな、宝くじあたらないかな、

そんなことを考える、よくいる普通の人間です。


そんな僕の子どものころは、もちろんよくある話ばかりです。

僕には少しだけ年の離れた妹がいました。

父親はいません。母親と、祖父母の5人家族でした。

妹ができてからは母親が独占できなくなり、それを疎ましく感じて、

妹のことがあまり好きではありませんでした。

それは妹が思春期になってからも変わりませんでした。

僕の後をついてまわり、僕の真似をして、僕がしている遊びに一緒に入りたがり、

僕が友だちと遊んでいるとその輪の中に入りたがり、

とてもうざったい存在でした。


僕自身は、明るくて可愛くて、かけっこが得意、友だちもそれなりにいて、

色々なことに挑戦し、一生懸命な頑張り屋さん。

母親の評価と合わせると、そんな評価でした。


こんな普通の僕が、僕自身を特別でないと早々に認識したのは、保育園のとき。

かけっこで負けました。

泣きました。悔しかったです。何度も挑戦しました。出し抜こうともしました。

でもダメでした。

その子に「だから無理だっていってるだろ!!」って言われながら走りを抜かされたことを、僕は今でも鮮明に覚えています。


お遊戯会でセリフを覚えて発表する場面がありました。

僕はそういう、人前で何かをすることが大好きでした。

目立ちたがり屋でほめられたがり屋だったのです。

女の子とペアでセリフ練習をしていたのですが、僕は覚えてきていませんでした。

「何で覚えてないの!!」と怒った先生の顔は今でも鮮明に覚えています。

僕は、事前に家で練習をして覚えてくる、きっと先生と約束をしたんだろうと思いますが、それを覚えていなかったのです。

泣きながら練習をして、本番はきちんとこなしました。


今思えば、このころから僕の無能さは出ていたのでしょう。

僕が普通より下だと認識したのは小学生のとき。


小学校では、それなりに友だちもいて楽しく過ごしていたと思います。

でも、学校に行くのがとても嫌だった記憶もあります。

算数が苦手でした。

小学校1年生のときは、棒の数を数えたり、おはじきの数を数えたりして、

答えが合っていて楽しかった覚えがあります。

それがある日突然、黒板に出された問題でわからなくなりました。

「りんごが1つ、バナナが2本。合わせて何本でしょうか?」

先生はこんな感じの問題を出したと思います。

何の話をしているのかわかりませんでした。

でも周りの子はそれぞれノートに答えを書いて、手を挙げて発表しようとしていました。


僕だけがわからない―――


世界に取り残されたかのような絶望を感じました。

先生は答えを黒板に書きます。

「1+2=3」

これを見た瞬間、衝撃が走りました。

僕は、”1+2”が3という計算はできます。

ただ、”りんごが1つ、バナナが2本、合わせて何本か”これを計算式にする術を知らなかったのです。

「わからない人~?」

先生は聞きます。

”1+2=3”はわかります。だから僕は手を挙げずノートにその計算式を書きます。

何故僕だけがわからないのでしょうか。

”りんごが1つ、バナナが2本、合わせて何本か”を”1+2=3”に変換する方法を他の人はいつ学んだのでしょう。

頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになったことは今でも覚えています。

家に帰って母親から何度も説明を受け、「合わせて、は=のことよ」と言われ、ようやく合点がいきました。

母親もほっとしたことでしょう。そこで躓いている、ということを認識するのに教える側も時間がかかりました。

僕の認識の中では、先生は「1+2は~?」という聞き方はしていたと思います。でも「1と2を合わせたら~?」という聞き方をされた覚えがありませんでした。


僕と世界の認識のずれはこういったことから始まっています。

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無能という名の怪物 @misak-ing

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