惚れ薬を盛られて

五來 小真

本文

会社で、仕事が断れない。

子どもの運動会や、発表会。

そんなものがある同僚の理由は、至極真っ当に思えて。

そこで遠慮してたら、どんどん仕事がまわってくるようになった。

休みがあんまりない。

そうしていたら総務の女性が来て、仕事のまわしすぎを周囲に注意した後、仕事は休まなくてはダメと説教してくれた。


たまの休みに行くのは、旅行。

そこで映す写真に、僕は写らない。

セルフで撮るのも大変だし、自分が映ってるのも、なんかね。

せっかくの風景写真に、汚点を残すような、そんな感覚。

だったら映さなくて良い。


昔の友人に、呼び出された。

ホイホイ行ってみたら、危ない薬の会だった。

一瞬手を伸ばしかけたが、断った。

そこまで踏み切る勇気なんて、ない。

じゃあ代わりに、というわけでもないんだろうが、そこでもらったのが惚れ薬だった。

刷り込みの原理を使って、相手を惚れさせるという。

単なるジョークアイテムだろう。

僕をからかって、楽しんでいるんだ。

よくある、よくある。


どうせなら総務の女性に使ってみて、やっぱダメかと言ってみたくなった。

美味いアルコールに、わずかな薬。

そして、彼女に僕の顔を近づけてみる。


とんでもない効果だった。

彼女は仕事が手につかず、僕の家に入り浸りになるようになった。

僕の要求にはなんでもイエス。

僕は有頂天になったね。


しかし次第にそれも影が差す。

そもそも彼女の魅力とは、芯のある性格だった。

こんな空気の抜けかけたビニール人形のような人ではない。

元に戻ってほしいと、切に願うようになった。


一ヶ月ほどして、量が少なかったことが幸いしたのだろう。

彼女は正気を取り戻した。

僕は彼女を抱きしめ、懺悔した。


全力のグーで殴られた。

そして僕の口をこじ開けられ、残っていた薬を全部飲まされた。

眼前には、鏡。

瞳に、自分の姿が大きく映った。


お前は一生自分を好きでいてろ!


自分の行動に満足し、そう捨て台詞を吐いて彼女は出ていった。

彼女はその足で、会社を辞めたらしい。


それからだ、僕の人生が変わったのは。

好きな人がいる、しかも四六時中。

ずっと一緒。


鏡に映る大好きな自分。

写真を撮るにしても、もちろん自分を映す。

会社の仕事も嫌なものは断るようになった。

大好きな自分を苦しめるなんて、とんでもないことだ。


僕の人生は充実したものに生まれ変わったのだった。

彼女には感謝している、こんな薬の使い方があったなんて。


<了>

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惚れ薬を盛られて 五來 小真 @doug-bobson

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