最終話 幼馴染なんてろくなもんじゃない


 幼馴染なんて本当にどうしようもない。


 たまたま家が隣で、親同士が仲が良かった。たまたま同じ時期に妊娠し、――-考えると少し気持ち悪い偶然だが――一週間違いでぼくたちはこの世に生を受けた。 


 偶然がぼくたちを結びつけた。

 その脆い鎖は、年月を重ねて腐れて、ただれて、膿んで、ねじれて、歪んだ。


 そしてそのままぼくに絡みつき、ぼくの一部になったのだ。



「あと、三分で年が明けるよ」


 ニシ君が腕時計を見て言った。

 次がぼくたちの番。前のカップルがガランガランと鈴を鳴らす。


 カップルじゃないのかもしれないとぼくは思う。

 ぼくとあかりのように幼馴染なのかも。

 その二人は手を合わせるとなんだか一心不乱にお願い事をしていた。


 ぼくは何を願おう。

 何を願ったらいいのだろう。


 あかりは、何を願うだろう。


 和泉さんは、ニシ君は。


 あかりの母さんは。


 どこかにいる、あかりの父さんは。


 何をみんな願うんだろう。


 手袋を外した手が痛い。コートのポケットに手を突っ込んだ。

 ピピ、と音がしてニシ君が時計を見た。

「お、あけましておめでとう」

「あけましておめでと!今年もよろしくね」

 ニシ君に続いて和泉さんが満面の笑みでぼくに言う。やっぱり彼女は可愛らしい。ぼくもこたえる。

「おめでとう」

 あかりは黙っている。少し眠そうに小さくあくびをした。ぼくはあかりを見て自然と微笑んだ。


 おめでとう、今年もよろしく。

 

 ぼくとあかりは幼馴染だ。今までも、これからも。少なくともしばらくは。

 

 腐れて、ただれて、膿んで、ねじれて、歪んだこの関係は続いていく。


「ンン!」


 後ろの人の咳払いに急かされて、ぼくたちは慌てて賽銭箱の前に進んだ。

 





 そして。ぼくらの三学期がはじまる。

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腐れ縁バーンアウト @yacora

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