魔法少女とサキュバスと終焉世界
黒井ちご
魔法少女とサキュバスと終焉世界
「ようこそ。終焉世界へ」
明日、この地球に太陽が堕ちる予定らしい。
未来が見える魔法少女、桜庭名花〈さくらばめいか〉は怯えることなくランドセルに教科書を詰めていた。
ふと視界が陰ったので外を見てみると、ツノが生えた少女が背中の羽を使ってバサバサと飛んでいた。
カラリと窓を開けてあげると、何も言わずにその少女は教室に入ってきた。
「貴方、名前は?」
少女は小さな声でぼそりと「ルヴァ」と呟いた。
「ルヴァかぁ。どうしてここにいるの?君、ここの世界の子じゃないでしょ」
ルヴァはくいっと目を見開いた。でもすぐ直って
「私、この世界のこと、知りたい」
区切りながら呟いた。声が小さい。
「ふうん。まあいいや。一緒に帰ろ」
教室を出て昇降口に繋がる階段を降りる。
「っくしゅ、」
ルヴァがくしゃみした。名花は自分が着ていたコートを貸した。ルヴァはそれを羽織ったが、少し大きかった。
名花はルヴァを気にせず歩き出した。
「私ね、こんな寒い日にアイス食べるの好きなの。風邪をひける気がしない?」
ルヴァはよく分かって無さそうだったが頷いていた。
「ルヴァも食べよ。何味がいい?」
小さな公園の中にあったアイスの自動販売機に近づきながら聞いた。ルヴァは困ったように眉を下げた。
「んー、私のおすすめはイチゴのアイス。それでいい?」
ルヴァは頷いた。名花は小銭を投入してイチゴのボタンを押した。その後にまた小銭を投入してチョコミントのボタンを押した。
「はい。」
ルヴァにアイスを渡すと、名花は自分のチョコミントアイスのフタを開け、かぶりついた。ルヴァもならってイチゴアイスにかぶりついた。
「甘いねー。はーあ、このまま風邪ひいて明日休めないかなー」
そこまで言って、明日で世界が終わることを思い出した。
ルヴァはそんなこと知らないので、嬉しそうな顔でアイスにかぶりついている。
「じゃ、行こっか」
また歩き出した。次は小さな無人駅に着いた。
名花は時計を確認した後、ホームから線路に飛び込んだ。
ルヴァは焦った様子で手を伸ばしている。
「あはは。大丈夫だよ、電車は後1時間後にくるから。別に死んだって構わないしね。」
どうせ世界は終わるんだから、という言葉は言わないでおいた。
ルヴァはホッとしてホームに座って線路の上で足をぷらぷらさせた。
「ここ、よく来るんだ。電車は1時間に1本だし、人なんて滅多来ないし。なんでもできるじゃん?」
ルヴァはこくりと頷いた。
「さっ、とっとと帰っちゃお。」
名花はホームに上がり、駅を出た。それをルヴァが追いかけた。
名花の家は古いボロアパートだった。名花はランドセルから鍵を取り出すと、家の鍵を開け、中に入った。
「入っていいよ。コートはそこら辺置いといて。」
名花はランドセルを投げると、小型ヒーターの電源をつけて床で胡座をかいた。
「ママ、帰ってこないの?」
ソファに座ったルヴァが投げかけた。
「ママ?ママはもう1年は会ってないよ。私がヘンな子って気づいた瞬間、帰ってこなくなっちゃった。」
ルヴァが首を傾げた。「ヘンな子なの?」
「ヘンな子だよ。私、未来が見えるんだ。あ、教えてあげよっか?明日、隕石が堕ちて世界が終わるんだよ。」
ルヴァは目を見開いた。
「すごい。私の世界だったら、変どころか崇められちゃうよ。どうしてこの世界の人は、変だと思うの?」
「え?あー、周りと違うということが、変だと思うからかなぁ。私、今教室じゃ浮いてるしね」
名花は目を瞑った。嘘吐きと責め立てるクラスメイトたち。特別支援学級行きを考える先生。そして誰も近寄らなくなった名花の机。その机には今でも落書きがされている。
「ねえルヴァ。明日世界が終わる。ルヴァは何をする?」
ルヴァは考え込んだ。
「…大切な人と過ごす、かな」
尤もな答えにつまんなさを覚えた。
「私からも質問していいかな」
名花は頷いた。
「明日、どうやって世界は終わるの?」
ルヴァの質問に戸惑ったが、目を閉じて、明日を思い浮かべた。
「…明日は、知らない人が太陽に照らされてて、でもそれは太陽が近づいてるだけで、地球が燃え始めた。」
誰かが太陽から離れた。その人にはツノが生えー。
「え…?」
名花は目を開けた。ルヴァはにやりと笑った。その姿はとても大人びて見えた。
「ようこそ。終焉世界へ」
魔法少女とサキュバスと終焉世界 黒井ちご @chigo210
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