双子の人形

千華

双子の人形

「ペールという少年だそうだ」

「まだ9歳だって?両親はさぞ辛かろうな」


 恐ろしいほど鋭い視線が、背中を伝うのを、本気で感じた。


 

 金がこの世から消え去った。


 ひとえに、取り過ぎだ。底をついた。

 しかし、それはあくまで自然の鉱物であれば。

 人工的に、いいや、ある意味奇跡の如く、存在したのだ。

 金を生み出す者が。


 価値のあるものを、金以外知らなかった憐れな人間の末路がこれだった。



 先代が亡くなったらしい。

 金の創造元が亡くなることは、国の死活問題だと諭された。

 

 諭されているのを見た。私の兄が。



 兄は、天に昇ったのだと言われた。


 実際は、どこかの地下牢にでも入れられ、一生を金を生み出すためだけに使われるのだ。

 そんなこと、分かっている。

 子供へつく嘘が心地いいものだと、大人が慢心しないでほしい。

 サンタクロースが実在すると信じ切り、子供に何の幸せがあるのか。



 自慢だったのだろう。

 兄が国の偉い人間に連れられるのを、両親は華々しく見送った。

 時が経てば再会出来る、とでも丸め込まれたのだろう。


 私も悲しかった。

 彼だけが私に向けてくれる、最大限の愛に惚れていた。

 儚い命は私に愛を注ぐ。

 透けるような金髪が、そっと鼻先に触れたかと思えば、体温の低い指が頬を伝う。


「君と一緒に生きたかった。愛しているよ。リエベ」


 最後に、それだけ言った。

 




 異性同士の双子が、やけに似ていた。

 国の英雄となった少年と全く同じ容姿の少女が、その後ろ姿を見つめているのが不思議だったのかもしれない。

 それとも、双子の片割れだと知っていたのか。


「すべて、忘れなさい」


 兄を引き留めたくて伸ばした手の先で、心優しい役人は訴えた。


 

***


 その夜、故郷の町ではパーティーが開かれた。

 皆が着飾る中、ズレたオートクチュールに身を包む私を、見とれながらもやはり人間でない何かを見るような目で見つめた。

 透ける金髪、赤さの欠けた白い肌、脂肪のない四肢。

 不自然に飾られた唇だけが、余計に人形味を増していた。


 これこそ、究極の美だと信じられた時代だ。

 造形物に理想を詰め込むのは当然のこと。


 ピンと張られた糸が私の左腕を上へ引く。


 あぁ、どうか私を動かして欲しい。


 今、もう少し右を向けば、愛する兄がいるのだ。



 新たな金山が発見されたらしい。

 兄は帰ってきたのだ。

 忘れてしまっただろうか。双子の妹を?



「ペール。貴方が好きだった人形。残してあるわよ」

「人形?」

「リエベと名付けて可愛がっていたじゃない。淋しがる貴方に似せて作らせたものだから、双子の妹だなんて言ってね」

「やめてくれ母さん。いつの話をしているんだい?子供じゃないんだ。もう必要ないよ」

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双子の人形 千華 @sen__16

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