第3話

ついに、ついにやった!

先輩とご飯に行ける!よく頑張った私!

ここまで来るのはとても大変でした、実は今回が初めてのお誘いだったんですけどね。


先輩は誰とでもそこそこ仲良くしてるのですが、飲みのお誘いは絶対に断ってて私はどうしたらいいか困っていました。だから断る理由がわかり次第どうにかして誘ってみようという作戦だったのですが...





『もー...そんなに辛いなら今日飲みに行きませんか?私暇ですよ?』

正直勢いで言ってしまった時は終わったと思ってました、あからさまなアピールだったかもとか断られたら生きていけないなんて色んな心配が一瞬で駆け巡りました。

ですがまさかその先輩が今私の横を上機嫌に歩いてるとは...過去の自分よく頑張った。




「そんなに嬉しいんですか?私と飲みに行けるの」


ちょっと攻めすぎたかもしれない、けどこの状況に脳みその八割が持っていかれてしまってまともな判断ができない。もうどうにでもなれ!


「そりゃ当たり前だろ!こんなにいい日は無いよなぁ!」


先輩は私に対してエア肩バシバシをする、先輩は絶対私に触れようとしないところにまたときめく。


「ふーん、でももうだいぶ元気になってるし行かなくていいんじゃないです?」


もちろん嘘だ、絶対に行きたいし絶対に逃がさない、もう今日は絶対にかえさない。


そんな私は私の言葉にショックを受けてまた元気を失いつつある先輩を見て更に上機嫌になった。

今日はいーっぱい飲みましょうね!




「そういえば福富はお酒飲むのか?俺はあんまりだが」

先輩はタッチパネルとにらめっこしながら私に問いかける。先輩も居酒屋の経験が少なそうだ。

「私ですか?私は...うーん、ちゃんと飲んだことはないですね。先輩がいっぱい飲んでるとこ見るだけで満足出来そうです」

「俺も大量に飲む訳じゃないからな?万が一の事があったらダメだしな」

「...なるほど」

先輩の優しさはほんとに世界一ですけど今日は万が一の事をしてもらうことは確定しているので申し訳ない。


「先輩これ行きましょ!あとこれも!」

「瓶だと!?俺あんまり飲まないって言っただろ!」

「先輩のたくさん奢る姿見たいなぁー」チラッ

「ぐっ...」ポチ

先輩はほんとこういうのに弱いんだ...将来ヤバい人に騙されそうで心配だ()

でも大丈夫です、私が絶対に守ってあげますからね!




「おぉ。」

私の作戦に必要不可欠の物が届いた、これで準備は万端。

「これどうすんだ」

「まあまあまあまあ...さ、グラスくださいよ」

「お?入れてくれるのか?」

私が瓶を持ち、先輩のグラスに丁寧に注ぐ。

先輩はこの光景に感動したのか顔がぐちゃぐちゃだ、それだけ喜ばれると私も凄く嬉しくなってしまう。

「...福富!ありがとう...!」

先輩がだんだん生徒から感謝を貰って感動する熱血教師みたいなめんどくさい感じになってきた、そんな所も好き。


先輩は注がれたお酒は絶対に飲むと言わんばかりに豪快な飲みっぷりを私に見せてくれた。やっぱり、予想通りだ。

そう、これが私の作戦SKSK(先輩なら後輩の注いだ酒絶対零さず飲むやろ)作戦だ!

この調子で飲ませ続けたらダウンしてくれるはずだったのだが...

先輩は空になったグラスを不思議そうに眺める、私は何も入れてないはずなのにどうしたのだろう?


「こんなにお酒って刺激も味も無かったっけか?」

「え...?」


おかしい、私の予想では先輩はあまりお酒を飲まないし弱いと思っていたのだがこの度数のお酒で刺激が無い?

これは普段から飲んでないとウギュってなるほどの度数のはずなんだけど...味見してみよう


「ウギュ」

「おいどうした...っておいこの酒めちゃくちゃ度数高いじゃないか!今のんだろ!早く水!水!」


ああ、わあ...


私はものすごい速さで重くなった瞼に負けてそのまま意識を放り投げた。




頭がフラフラする、まだ眠たいと思いながらも少し目を開ける。

見たことない天井、ここはどこ?

「んぇ...」

まともに脳と体が働かずによく分からない声が出る、そうだ、私確かお酒に酔って...せんぱいに...

あれ、せんぱい?どこ、どこいっちゃったの。

「せんぱい...せんぱい...」

暗くて構造も分からない室内の中先輩を手探りて探す、居ない。

壁に手を付け歩いていると目の前のドアの下側から光が漏れていることに気づく。

迷わず扉を開けると先輩がトイレに座って寝ていた。

「せんぱい」

同じ空間で寝ないようにしてくれていたことに私はどうしようもないほどに胸が苦しくなる。

でも私は先輩自身が苦しむような事をしている方が苦しい、そこまで気にしなくて良いですよって言ったって絶対に聞いてくれないだろうから私は強制的にベッドに持っていった。

先輩は少し重くて男の人だなって思ったけど私の絶対にベッドで一緒で寝るという決意のお陰で難なく連れてくることが出来た。


先輩を先にベッドに寝かせて私は向かい合うように横になる。

先輩の寝顔...こんなに素敵な視界今まで生きてきてあっただろうか?いや、無い。


私の邪な心は先輩の寝顔で綺麗に浄化され、睡眠欲だけが残った私はまた夢の世界へ意識を落とすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隠れた場所にある小さな神社に俺だけのご利益を求めて通いつめてたら色んな人から狙われてた話 不言ちゃん(いわぬちゃん) @iwanu_tyan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ