異世界ゆるふわカフェ経営記~女神様にもらった【思い出レシピ帳】が最強でした~

天照ラシスギ大御神

異世界ゆるふわカフェ経営記~女神様にもらった【思い出レシピ帳】が最強でした~

 気がつくと、俺、相田ケンジ(享年29)は、真っ白な空間にいた。

 目の前には、それはもう眩いばかりの美貌の女神様が、ニコニコと微笑んでいる。

 「相田ケンジさん、あなた、ブラック企業勤務で過労死なさいましたね。お気の毒に」

 ああ、やっぱり。薄々そんな気はしていた。

 「つきましては、お詫びと言ってはなんですが、異世界への転生の機会と、ささやかなスキルを授けましょう」


 女神様が授けてくれたスキルは二つ。

 一つは【思い出レシピ帳】。俺が前世で食べた美味しい料理のレシピが、なぜか詳細に記録されている不思議な手帳。

 もう一つは【調理器具召喚】。イメージした調理器具を、ある程度ならどこからともなく取り出せるらしい。

 「あの、女神様? これって戦闘とかには全く役立たない感じですかね?」

 「ええ、まったくもって! あなたには穏やかなセカンドライフを送っていただきたいのです」

 女神様は満面の笑みだった。うん、まあ、バトルはもうこりごりだし、いいか。


 俺が転生したのは、のどかな田園風景が広がる、アースガルドと呼ばれる世界の、さらに辺境にあるエルム村だった。

 幸い、村の人々は親切で、俺は空き家になっていた小さな小屋を借り受けることができた。

 さて、何をして生計を立てるか。

 【思い出レシピ帳】をパラパラとめくっていると、ふと一つのレシピが目に留まった。

 「オムライス……これなら、この世界の食材でも作れるかもしれない」


 俺は早速、村で手に入る鶏の卵(ちょっと大きい)と、保存食の干し肉、そして畑で採れた野菜を使って、見様見真似でオムライス作りに挑戦した。

 【調理器具召喚】でフライパンと包丁を出し、なんとか完成。

 見た目はともかく、味は……うん、悪くない。

 「これを村の人たちに食べてもらったら、喜ぶかな?」

 そんな軽い気持ちで、俺は小屋を改装し、小さなカフェ「思い出キッチン」を開店することにした。物語キーワードである【思い出レシピ帳】が、俺の新しい人生の道標となった。


 最初のお客さんは、村の子供たちだった。

 おそるおそるオムライスを口にした子供たちは、次の瞬間、目を輝かせた。

 「おいしーい! こんなの初めて食べた!」

 その笑顔を見て、俺は心の底から温かい気持ちになった。ブラック企業で失っていた何かを取り戻したような感覚だった。

 「ケンジさんの料理、最高!」子供たちの純粋な称賛は、何よりの社会的証明だった。


 口コミはあっという間に広がり、「思い出キッチン」には様々な客が訪れるようになった。

 森からは美しいエルフの狩人リリアが、珍しい薬草と交換にランチを食べに来た。

 「この『カレーライス』という料理……スパイスの調合が絶妙ですわ。森の疲れが癒やされます」

 山からは屈強なドワーフの鍛冶屋ドルガンが、仕事終わりに一杯ひっかけに。

 「この『唐揚げ』とエールは最高だぜ! ガハハ!」

 時には、旅の途中の獣人族の行商人や、お忍びで村を訪れた人間の貴族まで。


 俺のカフェは、種族や身分を越えた交流の場になっていった。

 言葉が通じない相手でも、美味しい料理を前にすれば、自然と笑顔がこぼれる。

 俺は【思い出レシピ帳】を頼りに、次々と新しい料理を提供した。

 ラーメン、ハンバーグ、お寿司(魚は川魚で代用)、そしてスイーツにはパンケーキやプリン。

 その度に、お客さんたちは驚き、喜び、そして舌鼓を打った。

 「ケンジ殿の料理は、もはや芸術の域だな」と村長も太鼓判を押してくれた。


 しかし、平穏な日々ばかりではない。

 ある日、村の近くに住む気難しいゴブリンの群れが、食料を求めて村に近づいてきているという情報が入った。

 村人たちは武器を手に取り、戦う準備を始める。

 俺には戦闘能力はない。でも、何かできることはないか?

 カリギュラ効果とは逆だが、「決して開けてはならない」とされていたゴブリンとの対話の道を探ることにした。

 俺は、ありったけの食材を使って、大量の「おにぎり」と「豚汁」を作った。


 そして、村の代表者と共に、ゴブリンたちの元へ向かった。

 最初は警戒していたゴブリンたちも、温かい豚汁の匂いと、ほかほかのおにぎりを前に、少しずつ態度を軟化させていった。

 ゴブリンの長老らしき個体が、おそるおそるおにぎりを一つ手に取り、口にする。

 そして、目を見開いた。

 「う……まい……」

 片言だが、確かにそう言った。


 結局、ゴブリンたちは俺の料理に胃袋を掴まれ、村を襲うことなく森へ帰っていった。

 帰り際に、長老は「また……食べたい」と呟いていた。

 「食は国境を越える」と言うが、種族も越えるようだ。

 俺は、料理の持つ力の大きさを改めて実感した。アンカリングされていた「凶暴なゴブリン」というイメージが、「美味しいものを求める隣人」に変わった瞬間だった。


 そんなある日、一人の旅の吟遊詩人が店を訪れた。

 彼は俺の料理に感動し、その味と「思い出キッチン」の噂を各地で歌にして広めてくれた。

 すると、今度は王都からもお客さんが来るようになった。

 中には、宮廷料理人もいて、俺のレシピに興味津々だった。

 「ケンジ殿、もしよろしければ、王宮で腕を振るってみませんか?破格の待遇でお迎えしますぞ」

 魅力的な誘いだった。しかし、俺は首を横に振った。


 「俺は、このエルム村で、みんなの笑顔を見ながら料理を作るのが一番幸せなんです」

 俺にとっての「莫大な報酬」は、お金や名声ではなく、お客さんたちの「美味しい!」という言葉と笑顔だったのだ。

 プロスペクト理論で言えば、王宮での成功という「利益」よりも、この村での日常を失う「損失」の方が大きく感じたのだ。

 ストーリーループのように、俺のカフェは日常を繰り返しながらも、少しずつ新しい出会いと出来事を運んでくる。


 ある晩、店じまいをしていると、女神様がふらりと現れた。

 「ケンジさん、楽しそうで何よりですわ。あなたの料理、私も少しいただいても?」

 俺は女神様に、特製の「クリームシチュー」を振る舞った。

 「まあ、なんて優しいお味……。ケンジさん、あなた、本当に素晴らしい才能をお持ちなのですね」

 女神様は満足そうに微笑んで、こう言った。

 「あなたの【思い出レシピ帳】、実はまだ空白のページがたくさんあるのですよ。この世界で新しい『思い出の味』を、たくさん作ってくださいね」

 そう言って、女神様はふっと消えた。


 俺は、女神様の言葉を胸に、明日もまた「思い出キッチン」の扉を開ける。

 エルフのリリアが持ってくる新しい食材で、どんな料理が作れるだろうか。

 ドワーフのドルガンが喜ぶような、ガツンとした新作も考えよう。

 そして、いつかゴブリンたちにも、もっと色々な料理を食べさせてあげたい。

 俺の異世界ライフは、美味しい香りと笑顔に包まれて、まだまだ続いていく。

 感情カクテルのように、懐かしさと新しさ、ほのぼのとした日常と時折の小さな事件が、俺の毎日を彩っている。




ケンジの異世界カフェ、ご来店ありがとうございました!お腹、空いちゃいましたか?この物語があなたの心を少しでも温かくしたなら、ぜひ画面下のハート❤で『おかわり!』の合図をお願いします!『こんな料理を出してほしい!』『このキャラが好き!』など、あなたの感想コメントが、思い出キッチンの新メニューになるかも!?作者フォローで、あなたも常連さんです! あなたが異世界でカフェを開くなら、どんな看板メニューを出しますか?ぜひ教えてください!

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