時を越える犯行

岸亜里沙

時を越える犯行

刑事の中里なかざとは戦慄する。

先日、市内で発生した殺人事件の捜査中に、奇妙な事実が判明したのだ。

「これは、一体どうなってるんだ?」

中里が捜査資料を見ながら呟くと、後輩の吉島きちじまが声をかけてきた。

「中里さん、どうしたんです?」

「これを見てみろ」

中里はそう言って捜査資料を吉島に渡す。

一通り資料に目を通した吉島も、驚愕の表情を見せる。

「嘘ですよね?こんな事があり得るんですか?」

「信じがたいかもしれないが、これが事実であり、俺たちが調べなきゃいけない事象だ」

中里は言うが、吉島は頭を抱える。

「でも、80年前の未解決事件で見つかった、犯人とおぼしき指紋が、どうして今回の殺人現場でも見つかったんでしょう?犯人はまさかタイムトラベラーとか・・・?」

吉島の言葉に中里は苦笑する。

「そんな訳あるか」

「しかし、そうなると今回の殺人事件の犯人は、100歳近い老人という事に・・・」

「100歳の老人が事件を起こさないという保証はないぞ」

「そうですけど、それはあまりにも非現実的です。中里さんは、どう考えますか?」

「分からん」

「えっ?」

吉島は、中里の予想外の言葉に面食らう。

「現時点ではなんとも言えん。もしかしたら、全く予想外の事実かもしれないしな。とりあえず、俺たちは被害者の身辺を調査するぞ。殺人事件の犯人の約8割は、被害者の顔見知りだ。指紋の件は、一旦忘れよう」


その後、被害者と金銭トラブルを抱えていた友人の技術者の男が逮捕された。

現場に残されていた指紋の謎は、犯人が警察のパソコンにハッキングし、未解決事件の指紋データを入手した後、3Dプリンターを使ってその指紋が施された手袋を作成し、それをつけて犯行に及んだそう。

余談だが、犯人である技術者の男が作り上げた、精巧な3Dプリンターの方が事件よりも注目をされたのは、偶然ではないだろう。


「どんなに犯罪が巧妙化しようとも、俺たちは犯人を捕まえるだけだ」

中里が小さく呟いたのを、吉島は知っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時を越える犯行 岸亜里沙 @kishiarisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説