悪役令嬢は領地でタヌキを駆逐する ~ザマァを遂行した後はイケメン従者たちと共にDIYした自慢のカフェーで薫り豊かな珈琲を頂きましょう~(問題山積でいつになるかは解りませんことよ)
第2話 人を謀るにも、もう少しマシな手はございませんの?
第2話 人を謀るにも、もう少しマシな手はございませんの?
皆さま示し合わせての謀りごとなのですわ。ワタクシにとっては青天の霹靂ですわ。あら、セイテンノヘキレキ、とは何のことでしたかしら。まぁ、どうでも良いことですわ。
ワタクシ、呆れ果てておりますのよ、今。
先ほどから小煩いこの殿方、どこの馬の骨とも知れぬ底辺貴族の次男坊だか三男坊だかに侮られるなどと、まったく噴飯ものですわよ。ワタクシを誰だと思っておられるのかしら。
時の権勢を誇るミルフォード公爵家の直系、エリザベート・ルセス・ミルフォードですわ! 下級貴族如きが我が名を呼ぶなどと、許しがたき無礼ですわね!
煮えたぎる胸の内を抑えて、ワタクシ、ぐるりと首を巡らせましたわ。この大ホールの、聳えるほどに高い天井を見上げましたの。ゴシック調の荘厳な造りは、かつて大聖堂であった頃の名残りを色濃く残しておりますのよ。……ゴシック? なんでしたかしら?
ワタクシの広範な知識をもってしても、その単語の意味に辿り着くことは叶いませんでしたわ。どこの国の言葉でしたかしら。
まぁ、よろしくてよ。そのような些末なこと。
かような場所ですから、この場に居並ぶのはワタクシとさほど年格好も違わぬような若輩ばかりですのよ。実際に政治の中枢を担っておられますご年配のお歴々は、一人たりと見えませんの。
つまり、そういうことなのですわ。ワタクシ、謀られましたの。いいえ、侮られたのですわ。公爵家というワタクシの家門が、まるで紙切れのようではありません?
自嘲の笑みも浮かんでこようというものですわ。
先ほどまでは確かに、我が身を震わせて唇を噛み、俯いておりましたわ。顔を見せぬように。屈辱に耐えていたのですわ。
こんなにも愚かな人々に吊し上げを受けるだなどと、なんたる侮辱でしょう。はらわたが煮える思いとはこのことですわ。あまりに煮えすぎて、笑いがこみ上げて参りましたところですの。
ええ、呆れ果てておりますのよ。あまりにも愚かなのですもの、皆さま。
王太子クリスティアン殿下にも、愚かな妹イライザにも、我が父ミルフォード公爵にも、そしてこの謀略を仕組んだ張本人であるアーレンハイトお兄さまにも。愛想が尽きました。そんなにもワタクシが憎いのですわね、よぉく解りましたわ。
顔を上げれば、壇上におわす王太子殿下と恥知らずな妹の姿とが、視界の中に映り込みましたわ。途端、頭に血が昇りました。これ以上煮えることは不可能と思っておりましたのに、まだまだ沸点には届いておりませんでしたのね。
ウサギのように震え上がっている我が妹へ、ワタクシは憎悪を目を向けましたわ。
その瞬間、またしても逆撫でる声が響きましたの。
ワタクシと恥知らずとを遮るように、また、下郎の身体が視界を塞ぎましたわ。
「許しがたい行状の数々、よもや忘れたとは言わさぬぞ!」
許しがたいのは貴方の方ですわよ!
殿下と我が妹イライザとを庇うように立ち塞がって、ワタクシにがなり立てているのは、たかが殿下の取り巻きの一人に過ぎぬ男ですわ。そんな下郎が、ワタクシが為したとか言う悪行の数々を、皆さまにお聞かせしようと仰っていますの。本当にバカバカしい。
政治などまるで関係のないこの場所で、何が出来ると仰るおつもり?
いくら殿下が居わそうとも、公式の決議は覆りませんわ!
王立学園内にある大ホールはただの学び舎。貴族子弟の集う場に過ぎず、政治とは無関係。何の権威もありはしませんわ。王城内にある議事堂での決議とは違いましてよ。政治中枢の場を模したゴッコ遊びでもなさりたいのかしらね。
先日卒業致しましたばかりですのに、なぜこのような場に呼び出されたものかと、そう言えば不審に感じておりましたわ。こういうことだったのですわね。
婚約の破棄をなんとしても正当化したいと、その為にワタクシを稀代の悪女に仕立て上げようと、それが本音なのですわ。
よもやこれが殿下のお考えとは思いません。そんな卑怯なお方ではございませんもの。きっとどなたかが、下らぬ知恵を披瀝なさったのですわ。
それはきっと、……いいえ、お兄さまであるはずはございません。あの兄が計画したならば、もっと静謐かつ完璧に計画は遂行され、ワタクシは気付く間もなく罠に落とされておりましょう。こんな茶番に等しい戯れ事など、あの兄に相応しくない。
それより何より呆れ果てることがございますわ。この場に集まった貴族子弟の者どもが、こんなにも愚か者揃いでよろしいのかしら。我が国の未来が不安でなりませんわね。次代の国政を担うはずの貴族子弟の者たちですのに、この体たらく!
このような児戯に等しい企みでどうにかなると、まさか本気で考えていらっしゃったの? この場にお集まりの皆さまは、まさか同じお考え? 信じられませんわ。
政治的な力など何もない弾劾の場にて、濡れ衣含みの罪状をでっち上げてワタクシを貶めようとなさっていますのよ。公爵家令嬢たる、このワタクシを。
王太子殿下は、本当にどうなさったのでしょう。このような痴れ言に加担するような愚かな方ではなかったはずですのに……。
「ひとつ! 貴様は同じく妃候補となられたアメーリア嬢に対し、密かに魔法を使って体調不良に陥らせた! その上、令嬢に向かい、礼儀を説くような素振りで時間を取らせ、人々の面前にて口に出すのも憚られるような恥を掻かせようとしたのだ! それだけでも許しがたいところ、魔導訓練の際には数々の嫌がらせをも行った! 一歩間違えば命に関わるような場で、人々の危険も顧みぬ迷惑行為を働いたことは絶対に許されてはならん! アメーリア嬢のみならず、場に居合わせた多くのご令嬢が危険に晒されるところだったのだ! しかもそのことを、公爵家の権威を使い、揉み消すなどと、言語道断の振る舞いだ!」
あら、まだお喋りが続いていましたのね。
……そうですわねぇ。そんなコトもありましたかしら。
確かにすべて事実ですわよ? それが何か? 当のご本人は何も仰らないのに、ワタクシも同じだけのことをされましたのに、なぜワタクシだけ暴露の目に晒されなければなりませんの?
魔法で下痢にして差し上げたのは前日にワタクシがそうされたからですわ。食中毒で死にかけましたのよ? そちらは不問ですの?
ただの報復行為に過ぎないことなど、誰の目にも明らかでしたわ。舞踏会で殿下と踊る名誉を賭けての水面下バトルに、お陰様でワタクシ、敗北いたしましたのよ!?
その報復の、何が悪いと仰るの!
魔導訓練の際に魔獣を解き放ったのだって、ワタクシではありませんことよ。同じく妃候補であったマーガレッテ嬢にいつも付き従っているご令嬢方のお一人でしたわ、確か。だのに、それもすべてワタクシのした事となさるおつもりですの?
これほど不公平な裁定を聞かされるなどと、誰が想像できましょう。
しかも、ワタクシを責める口実に使われようとしていらっしゃるのは、この場に居ないご令嬢ですの。それすなわち、ご本人の許諾を得てはいないということですわ。許可など出すはずもございませんもの、このような茶番。
不名誉にしかなりえないほどの茶番劇ですわ。
そのような場にて勝手に名を使うことがどれほどのご迷惑となるかも解らない者達ですのよ。まったくもって、迷惑千万ですわね。
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