最終話 笑顔のハミング王国

「ええーーっ?!」

「最初の夜に、バイオレットさんとローレンくんが寝静まってからカミールに呼び出されて相談されてね。

 僕もローレンくんのお相手は、獣なのも含めてバイオレットさんがいいと思った。

 でもバイオレットさんは純情そうで、放っておいたらチャンスを逃しそうだから、僕の告白や攻め方の手段を見せて、こうやればいいんだぞと焚きつけたし、ローレンくんはモテすぎて余裕こいてて自分からあまり動かないから、僕がバイオレットさんを狙ってるぞと思わせて焦らせた」

「で、でも、じゃあ猫耳持ってきたのは…」

「ただのウケ狙いだよ〜ん」

「それに、私のこと可愛いって…」

「そりゃ可愛いでしょ、世間一般論的に」

「だね、エロい女性を選ぶ僕でも、バイオレットさんは可愛いと思うもん」

「カミールさーん!」

「まだ油断するんじゃないよ。

 今晩でしっかりローレンくんのこと、獣の爪で捕まえちゃいな!」

オットーさんは最後の魔力を振り絞って、私とローレンさんの体力を回復してくれた。

「ありがとうございます!

 絶対にローレンさんを未来の旦那様にして、マフラー編みます!」

「ほんとにね、僕はいい仲間を持ったなあ」

「はひぃ。

 僕らは宿屋に着いたらバタンキューだね」


「そういや、なんかおかしかったよね」

宿屋で二人きりになってから、ローレンさんが言った。

「オットーはメンタル安定してるとはいえ、バイオレットさんに毛糸のプレゼント断られた時に冷静すぎたし、獣人の生態は気にしなさすぎるし」

「そうですね、私がローレンさんに振られると確信してたとしても、それにしても何度もガッツリ断られてる割にはいつも余裕すぎ、言葉がスムーズに出てき過ぎでした」

「だよねー!

 しっかし、マフラー編んでくれたら嬉しいけど、オットーが選んだすみれ色だけってのはね!

 いや、これもこれで彼からの友愛がこもってる訳だけどさ

 …こっちとシマシマにしてよ」

ローレンさんが鞄から取り出したのは…

「エルフ王国の花の色表記だと、ピンクじゃなくて桃色、っていうのがいいよね。

 バイオレットさんのフラワーティーをバイオレットさんたらしめてるのは、桃の花びらなんだもんね」

「わあっ!

 前もって買ってるってことは、ローレンさんも私のことを憎からず想ってくれてたんだ!

 嬉しいっ!」

ネコがじゃれつくようにローレンさんにとびついて…

そのまま…


次の日。

チェックイン時間が迫ってきても起きてこない二人の部屋をノックすると、例のパジャマを着た寝ぼけ眼のオットーさんが出てきた。

オットー「おはよう〜…」

カミール「わーっ、オットー、勝手に開けるなよ、バスローブはだけちゃってんのに!

     恥ずかしい!」

オットー「次からパジャマ持って来なよ」

カミール「こんなんに次があってたまるか!

  

     …しっかし、二人ともすっきりした顔してるね。

     なんか距離感も近くなってるし」

ローレン「もうね、バイオレットのことを可愛いと思うのが、ネコとしてなのか女の子としてなのかなんて悩んでたけど

     …どっちの部分も魅力的なんだって気付いた!」

バイオレット「私も…

       獣のローレンさんは、そのまま理想のローレンさんだった!」

パチパチパチパチ

カミール「よかったよぉ〜、バイオレットさんよくぞ攻め抜いてくれたよ」

オットー「ほんっと、バイオレットさんがちょっと僕にグラつきそうになったり、ローレンくんが僕に譲ろうかなって感じを見せたりした時はヒヤッヒヤしたからね!」


「もう倒したのか?!

 ただものではないとは思っていたが、まさか4泊で帰ってくるとは…」

ミハエル様は驚愕していた。

「国民もさぞかし感謝するだろうし、もちろん願いを叶えよう」

「えっと、早くできたご褒美に、追加でもう一つ僕のお願い聞いていただいていいですか?」

ローレンさんは俄かにもじもじしだした。

「なんだ? まずは聞こうか」

「バイオレットさんを


 …僕にください!」


「なんだ、そういうことか。

 寧ろこっちからお願いしたいことだよ。

 バイオレット、たった4泊5日でうまくやったな。

 10年来の仲なんだ、幸せにしてやってくれよ」

「もちろんです!」

「バイオレット、彼に爪を立てないようにだけ気をつけろよ、なにせ相手は回復魔法を持たない人間、しかも見た目が資本のアイドルなんだからな」

「やだあ、そんなことしませんよぉ」

「最初は僕に爪を立ててたのを教え込んだんじゃないか」

「それは12歳の時ですぅー」

「ほんっと、可愛い奴だな。

 この年代の男の扱いに長けてるだろうって点では、実に安心だ」

「ミハエル様…

 今まで本当にありがとうございました」

「こちらこそ」


ミハエル様が魔力切れで動けない一週間の間、私達は出来る限りのミハエル様のお仕事を捌いた。

私はいつも通りの侍従の細々とした仕事。

オットーさんは経理や事務仕事、ローレンさんとカミールさんはお客様捌きや外交で大活躍した。

そして、感染症が消滅した故郷ハミング王国には

…笑顔が溢れていた。

エルフ王国ほど、見た目のメルヘン感はないけど、

私達はこの国で幸せになるんだね。


                 〜Fin〜

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異世界救世主〜退魔も冤罪もお清めも〜 あっぴー @hibericom

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