第9話 アイドルの光と闇

ローレンさん…

そんなこと考えてたんだ。

私はまだまだ本当に彼の上っ面しか知らない

…全然理解できてないのかもしれない。

ローレン「だからお前をボッコボコにして鬱憤を晴らしてやるのです」

トリニティ「えっ?!」

ローレンさんは本当に鬼の形相で、マイクでトリニティをぶん殴り始めた。

トリニティはみるみるうちに小さな凹凸だらけになっていった。

オットーさんは一瞬唖然としていたが、すぐにローレンさんの回復に専念し始めた。

が、タイミングを同じくして、トリニティも平静を取り戻した。

「なんだ、貴様ぁ…

 所詮は人間の打撃、凹ませる程度、決定打は持ってないじゃないかぁ…」

羽交締めにされそうになるローレンさんを、カミールさんが剣で護った。

「貴様も、そんな凡庸な剣ではわしを貫くことなぞできんぞ…」

「ハナから貫けるなんて思ってないさ…

 だが、ローレンの凹ませた部分に剣でヒビを入れるぐらいならできる、それで充分っ!」

「ぬっ?!」

「ようやく気がついたようだな…

 この剣には、鉄を腐食させる希硝酸を染み込ませてあるのさ!」

「なっ…にっ…」

頭に血が上ったトリニティはカミールさんを殴ろうとした…が、

「な…なんだ?!

 腕が痺れて上がらない!」

「前門の僕とローレンくんに気を取られて、後門のネコがお留守になってたようだな!」

そう。

私もローレンさんが凹ませた部分の一点をひたすら爪でほじくり、小さな穴を開けて、そこから痺れ毒を流し込んでいたのだ!

「やっ…やめろ! 許してくれ!

 わしは、エルフ王国の者どもが、わしより弱いのに強くなろうともしないくせに、仲良く楽しそうに暮らしているのが気に入らずにその幸せを壊してやろうとしただけなんだ!

 貴様らのような強く賢い者たちは別なんだっ、見た目で決めつけてしまったことは謝る、どうか仲間にしてくれないか!」

「そうなんだ…それはかわいそうだね。

 ♩闇に囚われたトリニティ!

 僕が温めましょう!」

ローレンさんは本当にトリニティを抱きしめた。

「ローレン…といったか…」

トリニティは一瞬うっとりしかけたが…

「なっ、なんだこの臭いはっ!」

「僕が前を閉じたのに気がつかなった?

 お前がカミールとバイオレットさんに気を取られてる間に、ジャケットに染み込ませておいたのさ…


 人間の世界では感染症でお馴染み、アルコールをね。

 そして、僕はアイドルなのに喫煙者でね…」

ローレンさんはトリニティからパッと離れると、マッチを投げつけた。

ボッ

「きっ、貴様…

 よくも騙したな…」

「さっきの歌で気がつきなよ。

 アイドルは綺麗な嘘で夢を見せるのが仕事

 …そして、生半可な気持ちで肌が触れるまで近づくと大火傷する、強すぎる光…」

「このネコ被りめがーーっ!」

トリニティは怨嗟の声を上げながら

…鉄の塊へと形を変えていった。


「終わった…

 全部終わったね…

 これで感染症もなくなるんだ…」

ローレンさんはハーっとため息をついた。

「ついでに僕の婚活も終わりだな…

 こんな奴の全てを受け入れてくれる、大火傷したい女性なんて、いるわけない…

 特にバイオレットさんにとっては、いくらトリニティを倒す為にボルテージ上げたり、気迫で圧倒したりする必要があったとはいえ、これじゃただの、変な所に虎の尾があるヤバい男だよね。

 やっぱり冷静に戦えるオットーの方が…」

「何言ってるんですか?

 ネコは夜行性で身軽なので、強すぎる光からの大火傷もうまくかわせるし…


 獣の僕だなんて、望むところじゃないですか。

 だって私、文字通り獣ですよ?

 寧ろ、ローレンさんが獣なら、私の爪も受け止めてくれそうでちょうどいいですよ」

「えっと、歌詞ってのは比喩なので、完全に文字通りの意味じゃないんで、」

「今日はこんなにボロボロなんだから宿屋に泊まって、明日帰りますよね?

 順番的にはカミールさんとだけど、ローレンさんと同室でいいですよね?」

「ああ、それはもちろん」

「獣を全部受け止めるって、今晩証明します。

 …オットーさんには申し訳ないですが…」

「それは全然気にしなくていいよ!」

オットーさんは例のすみれ色の毛玉と編み棒が入った袋をこちらに投げてきた。

「編んでおくれよう、未来の旦那様に。

 …僕にとは言ってないんだし」

「そんなの…後ろめたいです…」

「なーにが後ろめたいんだよっ!

 覚えてる?

 バイオレットさんをハミング王国に連れて帰って花嫁にしたいとは言ったけど

 

 …これも僕の花嫁とは言ってないよね?」

「えっ?!」

「実は…

 僕はバイオレットさんのこと、


 好きなわけじゃないんだよね」

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