009泥田坊②



 沼地には泥田坊の姿が消えていた。


 倒したのか?

 やっぱり「魔弾」が効いたのかな。


 斗真がそう思っていると、


 「星原君!私の妖怪センスはまだ反応してる!泥田坊はまだ生きてる!」


 柊が〈緋槍〉を構えながら、言い放つ。


 「でも、姿が…………」

 「多分、泥の中にいる!」


 そうか、泥田坊は沼地の中に潜り込んで、姿を消したのか。


 泥の中に紛れるのは、マッドゴーレムに無い特性だったので、思い付かなかった。


 だが、泥田坊が沼地の中に完全に沈んでいるのなら、奴自身…泥で出来ているので、目視で位置を確認は困難だ。


 ならば、


 「〈万能眼オール・アイ〉〈魔力眼〉」


 索敵こそ、自身のスキルの出番。

 斗真はもう一度、〈魔力眼〉を使って、沼地全体を見る。


 すると、一つの場所に動く魔力が見えた。


 だが、そこは……、


 「いた!柊さんのすぐ近く!」


 泥田坊は泥の中を移動して、柊に接近していたのだ。

 恐らく柊を狙う気だ。


 斗真を脅威と感じ、狙いを柊に変更したのだろう。


 「近く?」

 「柊さんの後ろ!」

 「後ろって…………うわ?!」

 「柊さん!」


 斗真は急いで柊に泥田坊の位置を知らせるが、間に合わなかった。


 柊の後方にある泥の中から、泥田坊が飛び出して、彼女を襲ったのだ。


 泥田坊が泥の体で柊を飲み込もうとする。


 「こ、この?!」


 柊は手足を動かして、必死に抵抗するが、泥が彼女に絡みついて離さない。

 このまま飲み込まれてしまったら、息が出来なくなってしまう。


 妖怪も人と同じように窒息するのか、分からないが危険に変わりはない。


 斗真は柊を助けるべく、彼女の元の駆け寄ろうとする。


 その時だった。


 「食らえ!〈電電〉!!!」


 〈魔力眼〉を発動していた斗真は見た。


 柊の体…正確には、腹の中心から凄まじい魔力が溢れだすのを。


 「姿化かし」を取って、『鬼』になった柊は常に協力な魔力を纏っているが、それを超えるほどの魔力が溢れる。


 柊から魔力が溢れた瞬間、何か飛んでも無いことが起きる………そう、斗真が身構えた瞬間だった。


 バリリリリリリリリィ!!!


 響き渡る轟音。

 迸る閃光。


 「うっ?!」


 突如、起こった莫大な音と光によって、斗真は一瞬体を硬直させる。


 それは本来、雨などの分厚い雲が上空にある時に発生する自然現象。


 雲によって、生み出される無数の静電気が集まり、地上に降り注ぐし自然の驚異。


 それが、すぐ目の前で発生した。


 「これは…雷?!」


 斗真は驚愕する。


 文字通り、柊の体から雷が発生したのだ。


 ビリビリビリビリ!!!

 柊から発生した雷は、蜘蛛の巣のように放射状に雷撃を走らせる。


 夕方で薄暗くなったのに、沼地に強い日の光が差したみたいに、柊の周りが雷によって明るくなる。


 雷自体は、柊から数メートルの範囲にしか走っていないので、少し離れた斗真には影響は無かった。


 しかし、柊を飲み込もうとした泥田坊は、


 「ヌヌヌアアアア??!!」


 泥田坊の絶叫が沼地中に行き渡る。


 雷の直撃を受けたんだ、当然だな。


 暫し、泥田坊の絶叫が続く。

 柊による雷の放出と泥田坊の絶叫…先に止んだのは、泥田坊の絶叫だった。


 斗真は〈魔力眼〉で、はっきりと泥田坊の魔力が消失したことを確認した。


 妖獣である泥田坊は緑鬼と同じく、煙のように消えたみたいだ。


 『スキル〈万能眼オール・アイ〉のレベルが上がりました。〈透視眼〉が使用可能です』


 その時、斗真の耳に機械的な声が聞こえる。


 それは斗真が異世界に召喚されてから、何度か耳にする声だった。


 勇者としての能力であるスキルがレベルアップする際に、聞こえる声である。


 スキルは持ち主の成長と鍛錬によって、成長する。

 主に、異世界では魔物や魔族などの戦闘で成長しやすい。


 始めはスキル〈万能眼オール・アイ〉の能力は〈千里眼〉と〈魔力眼〉だけだが、スキルの成長で能力が増える。


 この世界では、魔物の代わりに妖獣がいるので、妖獣を倒した時でも、スキルは成長するみたいだ。


 柊から発生していた雷も止む。


 「柊さん!」


 泥田坊を倒して、一段落した斗真は柊に駆け寄る。


 柊は額に大粒の汗を浮かべていた。

 思うに、先程の雷は体力の消耗が激しいのだろう。


 「解除」


 柊が唱えると、斗真たちを囲っていた〈結界〉が無くなる。


 柊は斗真の方を向く。

 彼女の顔には、達成感があった。


 「星原君!やったね!」

 「ああ!」


 駆けつけた斗真と柊はハイタッチをする。


 柊の柔らかい手の感触と、泥のべたつく感触がする。


 柊も泥田坊に纏わりつかれた拍子に、泥まみれになったみたいだ。


 「〈妖怪センス〉の反応が消えたから、泥田坊は今度こそ消滅した」

 「じゃあ、これで妖獣退治完了って事?」

 「そうね。後はこの事を役所に行って、報告するだけ」


 それを聞いて、斗真は息を吐く。

 戦闘で緊張した体をリラックスさせた。


 昨日の複数の緑鬼より、よっぽど手強かった。


 斗真一人でも仕留められたと思うが、かなり手こずるだろう。


 「それにしても、さっきの私の〈緋針〉を投げた技は驚いた。私が投げても、あんな威力にはならないよ」


 柊は感心した様子で言う。


 彼女が言っているのは、「魔弾」のことだろう。


 「あれは「魔弾」って言う技術だよ。投石の威力を何倍にも高める」

 「魔……弾?聞いたことない」


 柊は「魔弾」に関して知らないみたいだ。


 当然である。

 「魔弾」は、異世界にある魔力を用いた戦闘技術から、斗真のアレンジを加えた彼独自の技術なのだから。


 「俺も驚いたけど、柊さんが最後、泥田坊に喰らわせてた奴……雷だよね?」

 「ええ、〈電電〉という技よ。敵に雷をお見舞いするの」


 そう言って、柊は額の汗を拭う。


 「まぁ…効果範囲が狭いから、敵と密着してる時以外使えない。後、妖気も大量に消費するから、体力もすごく減る。だから、滅多に使わないけど」


 柊はそう言っているが、それでも凄い。


 異世界でも、雷を生み出す魔法はあったが、使い手は数える程。

 しかも、殆ど魔法に卓越した魔族だった。


 電気を使う魔物もおり、斗真には苦戦した経験がある。


 強い電気は大体の生物において、弱点。

 その強い電気である雷を起こせるのは、大きな武器である。


 けれど、斗真には少し疑問に思うことがあった。


 「柊さんの雷って……髪もそうだけど、詠唱をしてないってことは、妖術じゃないの?」


 妖術が異世界での魔法に当たるのなら、詠唱が必要である。

 泥田坊と戦う前に、柊が〈結界〉を発動した時みたいに。


 だが、〈緋槍〉や〈緋針〉、〈電電〉は詠唱をしていなかった。


 聞かれた柊は少し迷った後、


 「う〜ん…星原君なら、見せても良いかな」


 そう言って、学生服の上着に手を掛け、腹の部分を捲り上げる。


 ブラザーとシャツも一緒に捲り上げたため、彼女のくすみ一つ無く、スレンダーで引き締まった腹部が露わになる。


 若干焼けた肌色に、形の良い臍を見せられて、斗真はドキッとする。


 対する柊も、少し顔を赤らめていた。


 「そ、その!み、見てて!」


 見てて…と言われても。


 斗真は若干目を逸らしつつ、柊の腹部を見ていると………彼女の腹部が光り始めたのだ。


 いや…正確には、彼女の腹部にあるビー玉ほどの玉が光っている。


 「私のお腹の中には、"電電玉"って言う…雷を起こす玉があるの。それで雷を発生させているのよ」


 柊は上着を下ろし、腹部を隠す。


 「つまり、私には生まれつき、髪や電電玉のように、詠唱をやらずに妖術を行使できる"生体妖具"みたいな物があるって事」


 なるほど…と、斗真が感じる一方、別の疑問が生まれる。


 詠唱を行使せずに、魔法を発動できる体の部位があると言う特徴は魔族に酷似した特徴である。


 やっぱり『鬼族』は魔族と似た特性がある。


 偶然だと思うが、何か妙だ。


 斗真が一途の不安を覚えている中、彼女は困った顔で自身の身なりを確認して、ため息を吐く。


 「はぁ…役所に行きたいんだけど、泥だらけ」


 柊は自分の学生服が泥だらけな事に、難色を示す。


 かく言う、斗真も学生服が泥だらけである。


 確かに、これで役所に行ったら、変な人と思われるだろう。


 とはいえ、柊は妖怪なので、変な人ではあるのだが。


 「それじゃあ…また俺の家に来る?シャワーぐらい浴びた方がいいよ」

 「……そうさせて貰う」


 斗真の提案に、柊は了解する。



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妖怪学校一の美少女と異世界帰りの勇者は怪異退治が任務である 保志真佐 @hosimasa

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