散る、散る、朽ちる

あゆうみあやの

散る、散る、朽ちる

「ねえ、向日葵って朽ちている方が綺麗だと思わない?」


 まだ暑さが残る九月。冷房の効いた部屋でお姉ちゃんとアイスを齧る。

 お姉ちゃんの視線は庭に咲いている終わりかけの向日葵に向けられていた。

 締め切った窓からは蝉の声が漏れて聞こえた。


「どうして?」


 終わりかけの、朽ちた向日葵。

 中心の鮮やかな焦茶は真っ黒に染まり、周りの黄色い花びらは水分が失われ萎れている。

 太陽に向かってまっすぐに伸びていた彼らは首の部分からうなだれるように垂れ下がっていた。

 こんなのより、元気に咲いている方が綺麗に決まっているのに。


「人間みたいじゃない。人間も死んだ後の方が綺麗でしょ?」


 お姉ちゃんから紡がれる闇を含んだ言葉たち。

 普段しっかり者のお姉ちゃんが、このときだけ誰か知らない、不思議な人のように思えた。

 いつもの彼女の芯のしっかりした瞳は真っ黒に染まっている。

 いつもの彼女の元気な顔はどこか寂しげだ。

 そんなお姉ちゃんから目が離せなかった。

 離したら消えてしまいそうで、手を伸ばそうとしたけど、怖さから動けなかった。


 私の持っていたアイスが溶け甘い汁となっていく。

 お姉ちゃんは食べ終わったアイスの棒を口にくわえて指でビンッと弾いている。


「なんてね」


 それと同時にお姉ちゃんはアイスの棒を真っ二つに折って、ゴミ箱に捨てた。

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散る、散る、朽ちる あゆうみあやの @amatsukaze_aya

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