デスゲーム
ボウガ
第1話
社長令嬢令息だけが一斉に誘拐された。
この国には、子どもの未来を親が縛る権利がある。
突然世界にひろまった奇病により、子どもの数が激減。一番流行したのがこの国だった。子の安全と国の未来のために子供は保護という名目で自由を縛られていた。
国が厳粛に将来の職能経験と才能の調査をし、進路を決めた。しかしその決められた進路の成績が悪い子供がさらわれたのだ。
狭い部屋にトム、アルク、リザ。少年二人と少女一人。テレビは自由につけることができた。
「不思議ね、自分たちの事がニュースでながれてるなんて、ふふんっ、どんな音楽がいいのかしら」
「……転生したら社長令息、しかもいきなり監禁されていた?」
「ふふ、わらえる」
アルクとリザは楽しく話あっていたが、トムだけが思慮深く考えていた。
「俺たちの共通点は何だ」
そして数日過ごしたあるとき、ニュースで犯人の声明が発表された。
「これは望まれたことだ、人々は不幸にあえいでいるのに、先進企業がこの国の富と産業基盤のほとんどを占有してしまった、それにもかかわらず君たちはもう10代後半だというのに、学業をさぼり、親の七光りを使って親のすねをかじって好きな事ばかりしている、哲学?小説?音楽作りなど」
兎の仮面をつけたサイコキラーがデスゲームの開催を宣言した。それでもみんなやる気をうしなっていた。彼らの挫折は、あのサイコキラーのデスゲームマスターの言うようなものではなかった。彼らには才能があったのだ。
キャスターが詳細を説明した。彼はクレイジーヌルと呼ばれるサイコキラーで、人を集めて殺し合いのデスゲームをさせているようだった。しかしこの部屋には何もなかった。ただ、監視カメラだけ。
「デスゲームのPVで収益を得ているようです」
「はぁーん、わらえる、ハッピーな音楽きかせちゃおうか?ルルルーン」
リザが歌いだすとPVは上がっていった。その日、また翌日翌々日からそれはミームとしてネットにひろがっていく。
アルクの小説もすごかった。何やら部屋の隅でノートをとっているとおもって、リサが読み始めると、ひどく上機嫌になって
「面白いじゃない!どうして発表しないの!?」
と彼の肩をばんばんたたいた。その小説も即日発表、人気作品になった。しかし、警察がいくら努力をしてネットユーザーがいくらつきとめようとしても、その場所は外部からの音も、外部の映像もはいらない打ちっぱなしの部屋だった。寒さだけはあの陽気なリザにさえ堪えたのだろう。彼女は日に日に衰弱していった・
生活にはこまらなかった、トイレもある、食事も、缶詰やレーション類があった。不思議なことに、ただやる気だけがわいてこなかった。何か、やる気を起こさせる何かがあれば。
ガチャリ、2週間がたったそのとき、ある少年が中にはいってきた。さすがに三人も驚いた。なぜならその少年が縦じまの、あのサイコキラーと同じ服装をしていたから、マスクは少しかわっていて、ひげ面の紳士のものだった。
「あなた、だれ?」
少年は答えた。
「俺か、名前はない……エックスとでも呼んでくれ」
テレビモニターが付いて映像が流れ始めた。
「諸君、こちらの手違いでな、ゲームの開始が遅れた、今日からゲームを始める、衰弱ゲームだ」
そういうと二つのグラスがエックスの配膳によってさしだされた。
「そこにあるグラスを手に取りのみほせ“衰弱してないやつが”」
「ちょっとまって、どういうこと?」
リザがあせると、すでにほかの二人はグラスののみものをのんでしまった。久々のお酒だ。大人に隠れて飲んでいた美酒の味。しかしふと違和感があった。アルクが小さなカプセルをはきだす。
「これは……卵?」
「おお、なんてことだ、トム、あなたは美しい……あなたはその手紙をよんでおきながらぐっとのみほしましたね?」
「……サナダムシ」
「え?」
「これはサナダムシを詰め込んだカプセルをいれお酒でしてね、その手紙にはそれを飲むことである恩恵があなた達にあることがかかれていた」
アレクがトムに詰め寄る。
「なぜ知っていて!」
しかし、トムはおちついて赤いカプセルをエックスから受け取った。
「これが解毒薬だ……さあ、リザ」
リザは感謝すると、それを飲み干した。
「素晴らしい、素晴らしい!」
サイコキラーが喜ぶとテレビの電源は切られた。
「これを、続けると?」
「まあ、そういう事になるかな、標的はランダムで一人だ、今回もね、だんだんと誰かが衰弱していく、唯一の解決策は、誰かを犠牲にすることだ、普遍的なゲームさ、あとは別の作戦もある、親に身代金の額を増やしてもらうことだ、その場合あとに残されたものが犠牲になる可能性もあるが」
「ふざけんな!」
3週間後、最も恐ろしい事態がおきた。サイコキラーも呆れていた。
「まったく、トム……君はなんてやつなんだ、君の頭なら脱出方法も探る事ができたろうに」
「脱出した先が同じ牢獄だったら?」
「え?」
トムは答えなかった。
3人は絶望していた。やせ細っていた。トムがサナダムシの入ったドリンクをみぬき、全員に均等に分配したのだ。ゲーム自体の破壊である。
「もうやめよう」
突然部屋に入ってきたエックスが皆に語り掛けた。
「え?」
とリザ
「もうやめよう、ミスターヌル」
「おい!お前……諦めるのか!お前の頭の中には小型爆弾が入っている!俺を裏切るとそれはお前を蝕む事になるぞ!」
それでもエックスはポケットから赤い錠剤を取り出した。解毒薬である。
「さあ、君たちは自由だ」
鍵を取り出し、一度閉じた鉄扉をあけた。
「どうして?君も捕らわれの身なんだろう?」
アレクが
「いわれてみれば俺も“捕らわれの身”なんだろう」
彼は、皆を外へと案内した。そこは海上に浮かぶ人口の孤島。まるで放棄された油田の観測所のようだった。そこに小さなコンテナハンスがあり、そこにとじこめられたのだ。
「おい!エックス!わかってるんだろうな!君はどのみち死ぬ!だがもう少しでも長く生きたいと思うならいますぐ彼らをコンテナの中に戻せ!」
「もういいんだ、ヌル……PV数も右肩下がりだ、俺たちには才能がなかった、それに彼らの親だってもう、あれ以上の金はだせない、皆、みてるか!」
3人は自分たちが呼ばれたとおもったが、実際に声をかけられたのは、コンテナの屋根にとりつけられた監視カメラだった。
「未来が分かっているというのはつまらないだろう?彼らが生きる気力がないというのはウソだった、この実験だって、君たちのやる気を出すためさ、彼らにはもともと才能があるんだ、才能がある人間を責めてまで、自分たちの能力を捏造してはいけない、君たちはただ画面をみていただけさ」
彼はするりと手すりをのりこえるとジャンプして、ぶくぶくとみずをかいたが、しばらくすると痙攣して、そして彼はそのまま海の中へ沈んでいった。
「せめたりはしない、僕は生きることに気力がないわけじゃない、ただ諦めていただけだったんだ」
彼の頭の声は誰にも届かなかった。
「頭の中で爆弾が起爆したの?」
「わからない」
アレクがリザに答えた。
数日後、その国の南端の地域。
「手を挙げろ!」
「おっと、わお、わかったよ、お前たちはよくやった」
彼らとは人種の違う青年。デスクの傍らにヌルのつけていた仮面と衣装がころがっている。
「よくみつけたな、ゲームチェンジだ」
強がっているが、彼の手は震えていた。
彼らはみな、その部屋を出るとデスゲームマスターの住居に押し入り、荒らしまわった。彼がこれまでに蓄積した財を集める事にした。彼もまた富豪の息子で、エックスと友人関係にあった人らしかった。一通り金になりそうなものを集め終わると、トムは彼にいはなった。
「ゲームチェンジだ、全て変わった、お前のおかげで」
「よくも彼を殺したな!」
アレクが彼につかみかかる。
「俺は殺していない!彼は、発作が起きたんだ!これは復讐だ!彼は不治の病で、以前のデスゲームに身代金を出さなかったクソ親のせいで治療が遅れた!デスゲームは彼の為だったのに!」
トムがいった。
「彼はいっていた、俺が全てを変えると、もう俺の人生は続くとおもっていないと“縛られるもの”を解放するべきだと、俺たちを海外に逃がしてこのことを他言無用にしろ」
エックスは気づいていたのだ。彼らは皆、親から執拗な支配をうけており、虐待まがいの扱いをされていたことを、だからこそ、わざとその証拠を親元に返した後に公開するつもりだった。だがもうその心配はない。親友のためにもはや犯罪を続ける意味もなかった。
デスゲーム ボウガ @yumieimaru
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