蛇足【閑話休題⑧】毬藻とアコの場合④

 私は歩く。

 私は歩く。

 前へ。

 前へ。


 私は扉を開く。

 開いて開ける。

 部屋の中に入る。


 男がいる。

 桃栗海道、私の父親。

 女がいる。

 桃栗桃子。私の母親。


「これを」


 手にした紙を渡す。

 成績の紙。

 ちっぽけな紙だけど、大事な紙。

 これから先の、私たちの未来を左右する紙。


「1位をとりました」


 事実を、伝える。

 期末試験で、1位。

 学年で、1位。

 父親の期待に応えた、1位。


「これで、約束通り、これからもアコは私の専属メイドでいてくれますよね?」


 まさか、お父様ともあろう人が。

 約束をたがえるなんて、しませんよね。


 父親が笑う。

 母親も笑う。

 父親は「それでこそ私の後継者だ」と言い。

 母親は「それでこそ私の娘ね」と言う。


「それでは」


 といい、私は踵を返す。

 早く、ここを出たかった。

 私がいたい場所は、いつだって、一つだけ。

 アコの隣だけだった。


 そのためなら、なんだってする。

 そのためなら、なんだって捨てる。


 私は歩く。

 私は歩く。


 私は、桃栗毬藻は、歩く。


 前へ。

 前へ。


 本当に前に進んでいるのかも分からない。

 本当は、どこにも向かっているのかも分からない。


 だから、私には、私が必要なんだ。

 ずっと私でいてくれる、アコが。

 毬藻が。

 アコが。


 私は懐から一枚の写真を取り出した。

 勝てないと思った。

 絶対に勝てないと思った。

 だから。


 負けてもらおう。


 アコの手は汚さない。

 アコには綺麗なままでいてもらう。


 私は父親のようにはならない。

 そう思って行動することが、まるで父親のようであったとしても。


 私は前を向く。

 私は歩く。

 私は、私は。


 写真を丸めて、捨てる。


 教師と、生徒が。

 姉と、妹が。

 キスをしている、写真を。


 捨てる。


 私たちは駄目で。

 私たちは許されなくて。

 私たちは拒絶される。


 全部全部分かったうえで。

 私たちの初恋は。

 もう止まらないし、止められたくない。


 全てが間違ったこの選択で。

 でも、全て正しい選択で。


 私たちは、純情で。

 私たちは、禁断で。

 私たちは、百合で。

 私たちは、姉妹で。


 これは私たちの物語。


 純情で、禁断で、百合で、姉妹で。


 純情禁断百合姉妹の、物語。

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純愛禁断百合姉妹物語。 雄樹 @uranhu

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