追放された転生吟遊詩人はテンプレを外したい
だぶんぐる
追放された転生吟遊詩人はテンプレを外したい
「バード、お前は俺達【蒼の牙】から追放だ!」
「え? なんだって?」
異世界追放モノテンプレワードに俺も思わずテンプレワードで返してしまう。
俺の名はバード、元の名は鳥越俊。つまり、異世界転生者であり、テンプレの化身だ。
テンプレの如く突っ込んでくる暴走車から子供を助け、
テンプレの如く女神に異世界に転生できる話をされ、
テンプレの如くチート能力が与えられることになった。
だが、余りにもテンプレ過ぎて思わず俺は女神に言ってしまった。
『あの、勇者とかじゃなくて吟遊詩人とかになっちゃ駄目すか?』
RPGで選択肢にあったとしても、自分ひとり転生の場合には選ばないであろう職業だが、なんとなくあまのじゃくな俺はそう言ってしまった。
あの時の女神さまの『何言ってんだコイツ?』みたいな表情は忘れられない。
まあ、何はともあれ吟遊詩人を天職として異世界にやってきた俺は、何はともあれ 【蒼の牙】というパーティーに入り、冒険者として活動していた。そして、【蒼の牙】自体はS級パーティー入り直前というところでの追放宣言である。
一応リーダーであるクロムが俺を見てにやにやと笑っている。
「ふん、余りのショックに声も出ないか」
いや、呆れて物が言えないだけだ。
ていうか、さっきの「え? なんだって?」がなかったことにされている。
だが、本当に呆れている。
「え? なんで?」
一応理由を聞いてみることにした。正直不思議でならない。何故急に追放する気になったのか。
「決まっているだろう! お前の天職は吟遊詩人。戦いもせずに後ろで歌ってばかり、はっきり言って邪魔なんだよ!」
呆れて物が言えないパート2。
そもそも吟遊詩人とはそういうものなんだが?
確かに、吟遊詩人自体は戦闘能力が高くない天職だ。だが、その分、魔力を乗せた歌を歌うことでパーティー全体の能力を底上げするバフスキルの持ち主。今までも俺に助けられてきたことを理解していないのだろうか。馬鹿なのだろうか。
まあ、テンプレであれば、こういう場合なぜか自分の実力が分かっていなくて、
『で、でも、僕だって、僕なりに頑張ってきたんだ、頼むよ、このパーティーにいさせてくれよ!』
とか言うのだろう。
だが、俺はテンプレあまのじゃく。
「おっけ、じゃ、おつかれしたー」
あっさりと引き下がり去っていく。だが、一つだけ気になることがあったので聞いておきたいと思い、足を止め振り返る。
「今、ここには俺以外で4人しかいないけど、あとの二人も俺がパーティー抜けるのを了承してるってことだよな?」
「……もももちろんだ」
うん、絶対嘘だな。このあと、テンプレで俺を追いかけてくる二人なんて未来が見えてげんなりする。一先ずはここを離れるのがイチバンと俺は俺を追放した奴らの乾杯を聞きながら酒場を後にした。
「さ~て、どうするかなあ」
テンプレで行けば、俺の真の実力を分かっている美少女のいる高ランクパーティーが勧誘にやってくるのだろう。吟遊詩人的にはパーティーを組んだ方が何かと楽だ。
だが、俺はあまのじゃく。テンプレに逆らう男。
「よし、やるか……」
数年後。
「な、なんだ? S級ダンジョンのボス部屋から歌が……?」
「あ、あれを見ろ! あいつさっき俺達を追い抜いていった歌の……」
「もしかして、アレが噂の……」
遅れてやってきたS級パーティーたちの声がかすかに聞こえる。
何て言ってるか気になるが今は無理だ。だって、
「Wow~♪ 俺のこの拳が真紅に染まる~♪」
歌いながら戦っているから!
「「「「アレが噂のミュージカル吟遊詩人!?」」」」
そう、俺は今、絶賛ソロプレイ中。
前世でよく見ていた2.5次元的なアレを真似てみたら大成功。
自分にバフをかけながら戦うチート吟遊詩人の誕生である。
「「きゃ~! バード♪」」
【蒼の牙】の女子二人、金髪碧眼の聖女リエルと黒髪剣聖サツキもやはりついてきたが、一緒に戦う訳でなくただのおっかけで、天職を活かすこともしていないのでまあテンプレ回避も出来ている!
仲間は、踊り子と踊り子と踊り子と特殊効果用の魔法使いとマネージャー! こんなパーティー見たことあるか? テンプレ回避!
ソロで歌って踊って戦う吟遊詩人として俺は輝き続ける! 俺は絶対に型にハマらない!
「Wow~♪ 高く掲げろ~勝利の拳~♪」
納得できない表情で崩れ落ちていくボスのドラゴンを見ながら俺はカーテンコールの歌を歌い始める。俺はテンプレ崩しの吟遊詩人。吟遊詩人のくせに世界を救うんだ! 最高にありえないだろう!?
ちなみに、風の噂によると、【蒼の牙】は何故か俺に対抗して歌い手アイドルグループとして活動し始めたらしいがうまくはいってないらしい。まあ、ギリギリテンプレ回避!
追放された転生吟遊詩人はテンプレを外したい だぶんぐる @drugon444
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