第31話

「え、え、何ですか突然?」

「先日、ゴローから聞いたんです。春野さんが……僕のせいで泣いていたと。」

「なんで本好先輩が知ってるんですか!?」

「……泣いていたのは事実なんですね。」

 ブラフ!?と思ったら「轟君が見たと言ってました。」と鴻先輩。

「轟君の話を聞いて、ゴローが『原因はお前だ。』と言うんです。なぜそうなる、と聞いたら」先輩が額を押さえた。「……頭突きを。」

 たんこぶ、それが原因か!

「原因が僕なら謝らなければいけません。でも、原因が分からないまま謝罪しても意味がない。でもいくら考えても分からず、また頭突かれました。」

「……。」

「今日まで答えが出せず……この状況が後ろめたくて。失礼は承知ですが、教えていただけませんか。」

 話す間、先輩はずっと頭を下げたままだった。私はそれを、じっと見ていた。まず、少し呆れた。そして、どうしようもなく腹が立った。

 だから、思いきり息を吸い、怒鳴った。

「ばーーーーーーーか!!!!!」

「ひぁ!?」

 鴻先輩の声が裏返った。

「ほんとバカでバカ真面目ですよね、初対面の時から!私みたいな後輩相手にも律儀に敬語で、お礼や謝罪もこっちが逆に緊張するぐらいバカ丁寧で。口では金の為とか言って、ミルイ退治だってバカ真面目にやって。」

「え、と。」

「迷い込んだ私を命がけで助けて、入部してからも困ってたらバカみたいに手厚くフォローして。自転車が壊れたのだってほっとかないで先生呼んだし。トラウマになってたら手まで握って。」

 怒りで体がぶるぶる震える。涙が溢れる。自制がきかなくなりながら、私は一気にまくしたてた。

「そうやって……バカみたいに優しくされて、もっと仲良くなりたいって思ったのに、『部活仲間以上になる気はない』って。……だったら、最初から優しくしないで欲しかった!先輩を好きになった私がバカみたいです!」

「えっ。」

 言いたい事を全て言い切ったら、どっと疲れた。先輩は目を白黒させている。気持ちが落ち着いた私は、静かにまた口を開いた。

「……それで。先輩が色々理由つけて私と話すのを避けてたのは、泣いてた原因考えてたから?」

「……はい。」 

「後ろめたくて?」

「はい。」

 小さく答える先輩に、私はため息をつく。呆れているけど、ほっとしている。嫌われたわけじゃなかったんだ、と。そんな自分も本当にバカだ。

「じゃあ教えてあげますよ。……好きな人に拒絶されたからです。」

 鴻先輩が目を見開いたまま固まった。告白って、もっとドキドキするものだと思ってた。こんな、疲労困憊ひろうこんぱいのまま、やけっぱちで言うとは。でも、もう伝えなくちゃ。

「拒絶、なん、て…」

「先輩言いましたよね。自分が無価値と言ったらそれが事実で、他人にとやかく言われたくないって。」

「あ…。」

「あの時の私は、確かに無遠慮に先輩の事あれこれ言いすぎたかもしれないです。それは、謝ります。けど、」

「けど?」

「私の好きな人を、無価値って言うのはやめて下さい。」

 鴻先輩の目が泳いだ。

「それは……いや、だって。僕には弟より勝るものが何一つありませんから。」

「6類適性者から言わせてもらえば、物を測る方法は一種類じゃないです。私は私のものさしで、先輩の価値を正確に測れます。」

「!」

「私はあなたが測れないあなたの凄い所を沢山知っています。だから好きなんです。」

 先輩がみるみる赤くなる。普段無表情で冷静な先輩が、凄く狼狽えてる。―ちょっと胸がすかっとした。そしたら、急にいたずら心が湧いた。

「何なら書きましょうか?えー、命の恩人、知識が豊富、いつでも冷静―」

「ちょ、やめて下さい!」

「あとはミルイの判別が上手い、教えるのが上手い―あ、ちょっと!」

 書いている最中に、鴻先輩が私のルーズリーフをひったくってくしゃくしゃに丸める。

「恥ずかしいですから止めて下さい!殺す気ですか!」

「はい!褒め殺します!」

 私は丸まったルーズリーフを奪い取る。体の大きさで勝る先輩が、腕を伸ばして盗ろうとするのを、私は体をかがめてかわす。図書室中を逃げ回る私に、先輩がパルクールのごとき身のこなしで追いつく。

「さすがですね。身のこなしがいい、って書いとこ!」

「勘弁してくだ、さい!」

「ちょ!」

 先輩がルーズリーフを掴もうとした手が私の手を弾く。私の手を離れたルーズリーフが宙を舞い―

 かさり

「……なかなか愛に満ちたメモですねん。」

 入って来た本好先輩に拾われた。


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