夜明けの二人【一話完結】
水溶沢片栗子
出会いと。
とある街のとある酒場、日が沈み騒がしさを増したその場所に一人の少女が訪れた。
それなりに目立つであろう目的の人物を探す。
中央付近、騒がしい卓とその周辺には居ないようだ。
もう一度入口からぐるりと見渡すと、1人の男が端の席で夕食を食べているのが見えた。
平均より少し高いであろう身長とそれなりに鍛えられた身体、明らかに異国の者だとわかる黒髪黒目の容姿。
少女はテーブルの間を小走りに駆け抜け、男の対面へと立つ。
「おにーさん、相席いいですか?」
少女はにこやかに笑みを浮かべ、首を傾げながら聞いた。
150㎝に満たない身長、そして腰まで伸びた煌めくブロンドの髪を首の後ろでまとめた少女は自分の武器を理解している。
並みの男なら頬を緩ませながら了解するだろう小悪魔の所業だ。
男は言葉を発さずにもぐもぐと咀嚼を続けている。目が合ったかと思えば一度頷いた後また料理に目を落としている。
(このやろっ、こんな可愛い子が愛想振りまいてるんだぞ!もっと喜べよ!)
内面強かな少女はくじけない。
「ありがと。それでお兄さん、昼間見てたよ。あいつ等最近この街で見かけるようになってさ。明らかに弱そうなやつばっかり狙ってイチャモンつけてるのよね」
少女は昼間の出来事を話し始めた。
最近街で見かけるチンピラたちがいること。
それなりに体が大きく、顔のいかつい男たちがまるで自分たちの"シマ"を歩くように周囲を威圧していること。
そして今日、チンピラたちが明らかに年齢も体躯も劣るであろう子供を恐喝している場面に黒髪の男が通りかかり、首根っこを掴まれて軽々と投げ飛ばされていたことを。
「この辺りで見かけない顔だよね?冒険者なの?」
此方が一方的に話続けてもあれなので、問いかけてみた。
もぐもぐもぐ…
男は丁寧な所作で食事を続けている。
「ちょっと何で無視するの!こんな可愛い子が相手してるのよ!?」
男はチラリと少女と見た後に、無言でメニュー表に手を伸ばした。
ページの最後、デザート欄を広げたかと思えば指でイチゴパフェをトントンと軽く叩く。
少女は少し考えた後、ため息を一つ逃がして店員を呼び止めた。
「すみません、この人に食後のデザートを」
かしこまりました~と奥に戻る店員を見送り男に向き直る。
「ご馳走さん」
「本当にね!」
会話するのにデザート1品、世が世ならコンセプトのあるお店である。
「そうえいばまだ名乗ってなかった。私はミラっていうの。貴方は?」
「ノート。好みのタイプは包容力豊かで豊満なお姉さん」
「そこまで聞いてませんけど!?」
私への当てつけか。
「元気だな」
「おかげ様でね!…それで貴方何者なの?」
「流れの冒険者ってやつだ。昼間のあれは誰も助けなかったから動いただけ」
「それでも偉いわ。もしかして何処かの貴族様だったりする?」
「なんでそう思う」
「だって食べ方が綺麗だし。身なりも、結構良さそうなモノ着てるでしょそれ」
冒険者にしては少し上等な装備を身に着けているのは一目でわかっていた。
「食べ方は恩師に教わった。外で飯を食う時はマナーってやつがあるだろ。装備は川に飛び込もうとしたら貰った」
「食べ方は納得してもいいけど後半端折りすぎてないかしら!」
この男のペースにもそろそろ慣れてきそう。
「商人の護衛任務で魔物を倒したとき、結構返り血を浴びたんだ。面倒だったから近くにあった川にそのまま飛び込もうとしたら商人がめちゃくちゃ焦ってこれをくれた」
「…商人の慌てる顔が目に浮かびそうよ」
「照れるぜ」
「褒めてないし」
そんなやりとりをしているとデザートのパフェが届いた。
「私のお金なんだから一口頂戴」
「はいよ。あーん」
イチゴソースのかかったバニラアイスを掬ったスプーンが目の前に差し出される。
甘味の前に乙女は為すすべもなく。
口の中に嬉しい甘さと冷たさが広がっていく。
ノートを見ると今日初めての笑顔で匙を口に運んでいる。
何よ。そんな顔もできるのね。ちょっと胸が高まったのは秘密だ。
あと間接キスくらい意識しろ。
「お、ミラじゃねーか。なんだまた男ひっかけてんのか」
「…人聞きの悪い事言わないで。あっち行ってよ」
「おー怖」
顔見知りが厭らしい顔をして横を通り過ぎた。
咄嗟のことで上手くあしらえなかった。態度に出すぎたかも…今の私はどんな顔をしているんだろう。
もぐもぐもぐ…
ノートは何も言わずパフェの採掘を続けている。
その沈黙が辛い。
「私さ、簡単な治療魔法しか使えないし力も無いから戦力にならないのよ」
「…」
「それでも生き延びるためには、強い人のパーティに入れてもらうしかなくて」
「…」
「…ってごめんね。つまんない話しちゃった」
「別に、治療魔法使えるだけ凄いじゃん。俺はそもそも魔法使えないからそれだけで羨ましいなって。ポーション代浮くし」
気を使ってくれたのか軽口交じりに返事をくれる。
案外良い奴かもしれない。
「ご馳走様でした。帰るか」
「早っ」
ノートが食べ終わって即席を立とうとする。
「もうちょっと話し込む雰囲気じゃない?優しく慰めたりとかさぁ」
「結構混んでるし、何も無い席で長居するのはちょっと」
「急に常識人ぶるじゃん。じゃあ貴方の宿教えてよ」
「あ、そういうのは間に合ってるんで」
「違うから!話すだけなら別に部屋行ってもいいでしょ!」
「話終わったらちゃんと帰れよ」
「わかってるわよ」
本当に体を…売るわけじゃないけど全く意識されなすぎてビックリする。
安心はできるんだけど今まで会った男たちとは全く別の生き物を見てるみたい。
人通りの少ない道を抜け、街の外れに近い宿に入る。
荷物と装備を片付けて軽装になったノートがベッドに座る。私もその横に。
「貴方全然照れたりしないわよね」
「一応照れておこうか」
「何の一応なのよ」
全く動じないのは”慣れている”からなのか。大げさに頭を掻いて目をキョロキョロする演技はやめろ。腹立つ。
「1人で旅をしてるの?」
「まあ、故郷を1人で飛び出してきたし。スラム出身で友達とか居なかったからな」
「意外ね。そういう所って仲間意識というか、結束力?みたいなのがあるイメージだったのに」
「俺の所は違うみたいだな。奪い合いもしょっちゅうあった。1人で立ち回ってるうちに強くなってたみたいだ」
マイペースなこの男は、幼少の頃からの環境で1人で生きる強さを手に入れたんだ。
見た目も育ちも能力も全く逆、私が欲しいものを持っている彼が少し眩しくて、少し悔しかった。
「…ねえ、1人で寂しくなったりしないの?」
「しない…と言ったら嘘になるけど、慣れたってのが本当かな。元々ずっと1人だし」
「一緒に寝てあげよ―――」
「あ、大丈夫です」
「ちょっとは悩めよ!こんな可愛い少女が言ってるのに!」
「さっきも言ってたけど自己肯定感高くてすげえ」
「冷静に返すな。寝るって言っても”売り”じゃないからね。そこは勘違いしないで」
「話終わったら帰るって約束だっただろ…」
「じゃあベッドの中で話ましょ。話してる間は帰らないから」
我ながら強引な流れだった気がする。でも別にいい。
この感情が何かわからなくても、嫌じゃなかったから。
彼が先に着替えてベッドに潜った。腕を持ち上げ入口を作ってくれる。
「服脱いであげましょうか?」
「出口はあちらでーす」
「嘘よ。入るから」
彼の横に並ぶ。
「ちょっと背中向けてくれ」
その声に従うと、後ろからそっと抱きしめられた。
「大きいわよね。私全部包まれそう」
「抱き枕としては丁度良いサイズだと思う」
私の頭より高い位置から声が聞こえる。私より一回り以上に大きく筋肉質な体の割りに、回された腕にあまり重さを感じないのは優しさからなのか。
さわさわ
「おい」
「大きくなってない。もしかしてその…枯れてたり…」
「違うから。憐れむように言うのはやめろ」
彼にもプライドはあるようだ。
「実は、自分の意志で操れるんだわ」
「何それ凄い」
「昔の恩師にちょっとな」
「恩師も凄い」
その技術はもっと広められるべきではないのだろうか。
「じゃあ今大きくすることもできるの?」
「できるけど嫌だろ。そんなつもりで来たんじゃないんだし」
「操れるなら戻せるのよね?ちょっと!ちょっとだけでいいから!」
「セリフの立場が本来逆なんだよなぁ」
ベッドに入ってからの方が、彼のペースを崩せている気がする。
このままイニシアチブを取りに行く。
「本当に出来るかの確認だけ。そんな技術普通できないんだから」
「…はあ、まあいいか」
彼が諦めたようにため息をつく。
お互い無言の間ができたかと思えば、私はお尻の辺りに熱を感じ始めた。
「っ・・・」
「おい、手で触んなくてもわかっただろ。とまれとまれ」
「…いや、その、思ったより、大きくて」
「言わんでいいから。戻すぞ」
熱が少しずつ引いていき、お尻を押す感覚がなくなってきた。
「本当に出来るんだ…怖っ」
「言っただろ。できるって」
「初めてだもん。そんな人」
「照れるぜ」
「嘘つけ。ねえ、そっち向いて良い?」
「ああ」
「ありがと」
もぞもぞと体を向き直した。彼の顔が見える。暗闇の中だけど目があった気がした。
「もしかして眠い?」
「正直眠い」
「本当にマイペースね。ここまで来て抱かれなかったの初めてかも」
「…体を重ねなくても、ぬくもりが欲しい時くらいあってもいいんじゃねーの」
「…そうね」
「そろそろ寝よう」
「うん、ありがとう」
「おやすみ」
「おやすみ」
しばらくすると規則正しい寝息が聞こえ始めた。
私はそっと唇の距離を0にしたあと、顔の赤みを隠すように彼の腕の中で丸まった。
カーテンの隙間から日が差し込んで、私は目を覚ました。
いつもと違う感触に違和感を感じ体を起こす。
隣を見るとまだ目を瞑って寝息を立てるノートが居た。
そういえば一緒に寝たんだったっけ。
本当に寝るだけだったが、悪くなかった。彼のペースに振り回されたことも含めて。
彼が起きたら、お願いしてみようかな。
私、ポーション代の代わりくらいにはなるからさ。
夜明けの二人【一話完結】 水溶沢片栗子 @Mizutokizawa
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