第42話 ろくでもない理由ですね
【千年前の紅子様@封印氷室:吉平視点】
ろくでもない理由ですね
烏帽子に狩衣、腰に呪符をつけた陰陽師が生贄になる令嬢の前に立っていた。
無表情に徹して。
声にも感情を載せないように。
「お前を生贄にせねば、宮廷が納得しないのだ」
娘は射殺すような目で陰陽師を見据えた。
口もひらかず、目だけで反抗しているような強さだ。
「九尾狐の属性は、火。だから、水である氷に封印することになった」
娘の唇が震えている。
かなり奥歯をかみしみめているのだろう、怒りで唇を震わせているのだ。
「千年生きた狐が九尾となり、妖力を得た。したがって、千年の封印となる。
千年の封印のために、生贄が必要だ。紙の式神ではなく、生贄となる生きた人間を陰陽師の式神として封印を守らせる」
娘が視線を外した。
もはや話を聞く価値もないと見下したようだ。
無理もない、生きたまま氷に封印されるというのは言葉だけのことで、娘が氷に閉じ込められば生きているはずもないと考えるのが自然だ。
吹雪の音が強くなった。日も落ちて、気温も下がった。
外で縛られている氷室一族も、さぞ寒いだろう。それとも怒りで寒さなど感じないだろうか。
あの陽気でのんきな学問集団が、凶悪な顔をして本気で怒ってはむかってきたのだ。
朝廷から派遣された検非違使たちも、防戦のため本気で剣を抜く。
怪我をしたものたちは手当もされず、真冬の地面に倒れたままだろうか。
当主も奥方もケガをしていたが、大丈夫だっただろうか?
娘の口に薬を注ぎ込む。
ちゃんと声が聞こえるように、顔を寄せながら。
「お前が泣き叫んで嫌がっても朝廷は生贄を求める。お前が逃げても追ってくる。一族も追われ、仕事を、学問を失い、お前たちは何もかも失う」
娘の喉が動いて、薬をごくごくと飲み下した。
「お前が悲しむと、残された一族はいつまでも苦しむ。九尾狐の封印だと思うな、一族を守るための生贄だと思え」
娘の目が陰陽師の目と合った。
こつっと陰陽師がひたいを合わせた。感情をのせない声で「ごめんな」と小さく言った。
さっき散々ごねたあげく、一応、陰陽師の式神になる儀式は終えている。
自分が発令を出せばいいだけだった。
娘の目が燃えるような怒りに満ちている。納得できない、理不尽な生贄と、一族への暴行に怒っている。
そして、何もしてやれない陰陽師にも絶望しているようだ。
嫌われただろう。
「お前の生贄は契約通り、一族のためになる。証文に書かれた通りに月御門は生贄の代償を払うだろう」
娘はうつむいたまま、感情を消していた。
「お前の記憶は消す。感情が邪魔になるからだ」
初めて娘が口を開いた。「いや!」
陰陽師は術をかけながら、嫌がる娘の記憶を消していく術をかける。自信はない、作法通りにしているが、案外、薬が効いているだけかもしれない。術は発動しているのだろうか?
娘がくすくす笑い出した。
にこにこと嬉しそうだ。
「ふふ、推しのしあわせ。私のしあわせ!」
ああそうだったと陰陽師は思った。こういう娘だった。
娘を連れて外にでても、娘は一族をみなかった。
ただ「私の犠牲が一族のためになる!なんてしあわせ」と笑っている。
父親が呼びかけたが、振り向かなかった。
ただ、氷室に入る時、吹雪にむかってこういった。
「約束ですよ。いままでとおり笑って学問してくださいませ」
ガキ
血の匂いがする。
クマやんの奥歯がおれたのだろう。口から血を流している。
二度と自分に笑いかけることのない男の痛みを陰陽師は感じていた。
一族が学問オタク!千年前の推し活悪女、復活して借金大学を救います! 赤出ミア @acade_mia_27182e
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