📘エピローグ

―これは、もう“記録”じゃない。

 君と過ごした日々は、僕の中で“思い出”になった。

 たとえもう君に触れられなくても、

 心が揺れたことだけは、本物だったから。―


春が終わり、夏の気配が街を包みはじめた頃。

桜雲町にも、蝉の声と土の匂いが戻ってきていた。


陽翔は、ノートを一冊抱えて駅のベンチに腰かけていた。


それは、かつて“心を閉ざしていた”少年が、

いまや誰かの心を震わせる物語を書こうとしている証だった。


「君の心は、プログラムされていない。」

――そのタイトルは、今も彼の中で、生きていた。


ノートの最後のページには、こう綴られていた。


「たとえ、君がもういなくても。

 君がここにいた時間は、確かに僕を変えた。

 その事実が、今の僕の心の輪郭になっている」


陽翔は、ページを閉じ、立ち上がった。


歩き出すその背中は、あの日の無表情な彼ではない。


誰かと関わることに、不器用でもいい。

言葉にできない気持ちも、抱えたままでいい。

ただ――“共に過ごした時間”は、消えずに残る。


それこそが、

“心があった証”なのだから。

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