黙示録の夢

稲富良次

第1話

マザコンの作家。

大司祭の探偵、失踪した父の謎を追う魔性の女。

おせっかいな警官、ヒスパニック系のカルティスト。

大天使ミカエルと妄想している探偵助手、探偵の会社の上司。


「あなた、またあの夢を見たの?」

 私の母が、そう問いかけてきた。

「はい、母さん。毎回同じような内容です。」

 私は、少し苦笑しながら答えた。母は、私が小説家であることを知っている。

彼女は、私の小説を読んでいるわけではないが、私の夢を知っている。

「あなたは、夢から逃げるために、小説を書いているの?」

 母の問いに、私は黙り込んでしまった。私が小説を書く理由は、

夢から逃げるため・・・

それだけだったのだろうか。

私は、自分自身に問いかけた。しかし、答えは出てこなかった。


「あと泊りがけのコンベンションの夢もよく見る。」

そう言って、私はスープを一口飲み込んだ。

スープの温かみが、私の胃袋を包み込む。

あの夢は、いつも同じだ。

散乱しているボードゲーム、そして並べられた無数の同人誌。

まるで普通の旅館にありそうな机にそれは鎮座している。

しかし、私にとっては、それが夢であることには変わりはない。

決して遊べないゲーム。興味があっても読めない本…

ミダス王の黄金のようにはかないものだ…

そして、帰りのバスの時間を気にすることが常だった。


私は夢の続きを思い出す。


「あいつら、どこに行ったんだ?」と私は夢の中で呟いた。私は探偵であり

このホテルで起きた事件を解決するためにやってきた。

盗まれたのは高価な宝石で、容疑者はこのヒスパニック系の若者たちだった。

私は彼らを追いかけ、エレベーターに乗り込んだ。

すると、

舎弟風の若者が私に向かって言った。


「何か用か?」

私は冷静に答えた。

「あなたたちに話があります。」

しかし、彼らは何も言わずに、エレベーターから降りてしまった。

私は彼らを追いかけることに決めた。

「何をしているんだ?」と、私は尋ねた。

「このドル札の巻物を盗んでいるんだ。」と、彼は答えた。

「なぜそれを盗む必要があるんだ?」と、私は再び尋ねた。

「それは、俺たちが探している情報が含まれているからだ。」と、彼らは言った。

彼らは泥棒であり、このドル札の巻物が彼らが解決しようとしている事件の鍵となる情報を含んでいると信じているようだ。

「あなたたちは何をしているんですか?」私は尋ねた。

彼らは私を見つめ、にやりと笑った。

「我々はただ、神の仕事をしているだけだよ。」

そうすると夢の場面が突然変わった。


彼らの周りには、生贄の子羊が並べられていた。 その中には、臨月の女性もいた。 彼女は苦痛に顔を歪め、妊娠線が縦に刻まれた腹を抱えていた。

私は彼女を助けようとしたが、彼らは私を止めた。

「止めろ! 彼女は我々の神のために生贄になるのだ!」

私は彼らの異常な行動に怯え、逃げ出した。しかし、その後も

彼らの行動は止まらなかった。何故彼らがこうなったのか、私は知りたくなかった

だが探偵として彼らの行動の真相を探ることに決めた。


「ミカエル、私を導いてくれ。」 私は祈りを捧げながら、ミカエルを召喚する魔法を唱えた。 すると、天使の姿をしたミカエルが現れた。

「何をお命じでしょうか、大神官様。」

「反キリストの生まれる場所を探せ。そして、その母親を見つけ出し、

堕胎させるのだ。」

「はい、大神官様。」 ミカエルは消え去り、私は満足げに微笑んだ。

大神官であり探偵でもある私は反キリストの誕生を阻止するため、全力を尽くす

つもりだった。


「おい、何をぼんやりしているんだ?」 私は振り返ると、そこには私の上司が立っていた。 「ああ、すみません。考え事をしていたんです。」

「考え事? 何を考えていたんだ?」 私は躊躇しながら答えた。

「反キリストの生誕について考えていたんです。」

上司は驚いたような表情を浮かべた。

「反キリスト? 何を言っているんだ?」

私は深く息を吐きながら、自分が受けた啓示を語り始めた。

「金色に輝く大神官は私を依り代として受肉したのかもしれない。

あるいは間違えて認識しており神の御子そのものかもしれない。

いずれにしても反キリストが生誕する兆しの啓示を受けた。

私は預言者として神の家にこれを報告する義務があると固く認識してここにいる。

世捨て人の世迷言と思わず神の詔のとしてこれを聴き遂げる事を願う」


上司は私の話を聞き終えると、深く考え込んだ表情を浮かべた。

「それは大変なことだ。私たちはすぐにでも行動を起こさなければならない。」


そして場面が突然変わった。


「あの横丁に行ったのか?」 探偵の私は自分の手帳にメモを取りながら、

棄民の横丁を歩いていた。

「この辺りは危険な人々が集まるところだから、気をつけなさいよ。」

不意に聞こえた謎の声に私は驚いた。

「あなたはこの辺りで何をしているの?」 現れた女性は私に疑いの目を向けた。

「私は探偵です。この町で起きた事件を調べています。そして

今、気が付きました。あなたを探していたんです」

「あなたは、最近失踪したあの男性の娘さんですよね?」

彼女はうなずいた。

「あなたの父親は私が追っていた事件の関係者だったんです。

そしてお父さんは事件の真相を知っていたはずです」

彼女は混乱していた。父親が何か恐ろしい事件に関わっていたなんて、

知らなかったはずだ。

「あなたはお父さんが必死に隠していた秘密を知っているはずです。私はその秘密を手に入れたいんです」

彼女は考え込んだ。父親が何か知っているとしたら、それは何だろう。そしてそれが自身の失踪と何の関係があるのだろう?


「父親の失踪事件?ふふふ、 あなたは何を知っているの?」

態度が豹変した彼女はさらに私に近づき、不気味な笑みを浮かべた。

私は彼女の態度に警戒を強め、手帳を握りしめた。



「つまり失踪した父は堕天使ルシファーあるいは反逆者サタンであり

あなたが反キリストだったのですね。」

「そう反キリストは男子であるという思い込みね」

「そしてあなたは私の父が私が何歳の時に失踪したのかは

なぜか聞かなかったわ」

「わたしが物心ついていない頃18年前、あなたは何年前から探偵をしているの」

「まさか私が…」

「そうよ、あなたがサマエルよ」

「そもそも大天使ミカエルを使役している事に何の疑念も持たなかったの」

「お前の母親はどうなった」

「それを聴くのね、あなたが見た通りよ、母は私を産む道具

私は教団に育てられたの、教団は母がどうなったかは教えてくれなかったわ」

「キリストは母に神聖があり、反キリストは父に神聖がある。

キリストの名目上の父ヨセフがその後どうなったかは興味あるかしら」

「それを言えば聖母マリアも伝道になにか貢献したかしら?」

「あなたは人類が滅びる終わりの始めを傍観していなさい」

「思えば母が処女受胎したのが2023年6月12日の今日

あなたが恵まれない者たち為に福音書あるいは黙示録をこの世に送り出した時

その時私は産まれた」

「あなたが神の啓示を聴いたのは」

「2023年3月24日だった」「78日かかったわけね」


「おい、あんたら、何やってるんだ?」

突然声が聞こえた。 探偵の私は、その声の方を向くと、

そこには警官が立っていた。

「あなた方は、この現場に何の用があるんだ?」と、

警官は厳しい口調で私たちに問いかけた。

私たちは、急いで説明をすると、警官は私たちの話を聞いて、

納得したように頷いた。

「なるほど、探偵さんたちか。それなら、私も手伝おうか」と、

警官は微笑んで私たちに声をかけた。

私たちは、警官の協力を得て、事件の真相を解明していくことになった。

しかし、その後に待ち受けていたのは、予想だにしない展開だった。



探偵の私と反キリストの彼女、そして警官は棄民の町の工場の廃墟の前にいた。

その工場は蜘蛛の巣のような白い粘液に覆われていた。

「ここに入るのか」

私は躊躇した。

「ホテルのドル札の束を盗んだ犯人がここにいるとタレコミがあった」

警官は懐中電灯を取り出しながら言った。

「いくぞ」

私と彼女はしぶしぶ警官に従った。

廃墟の工場は異様な機械が整然と置いてあった。

私達はその横を通り過ぎる。

「待ち伏せがあるかもしれないぞ」

懐中電灯の光を振り回しながら警官は注意を促した。

「狙撃銃があればひとたまりもないわね」

女は冗談めかして呟いた。

「あいつらがそんな常識的な手を使うのか」

私は疑問を口にした。



「おいあれはなんだ」

警官が部屋の中央に書かれている魔法陣をみて怒鳴った。

「カルト集団ですから何か儀式をするんでしょう

ありきたりといえばありきたりですね」

私は魔法陣に書かれている呪文を見るために回りを歩いた。

「おい、なにかわかるか?」

反キリストの彼女に聞いてみた。

「召喚の魔法陣ね」


トルルル

私の携帯が鳴った。

「君は何をしているのかね!」

私の上司だった。

「なんで?スペイン人を追っているんです。その途中で実の娘と警官を仲間にして

棄民の町の工場で魔法陣を見つけました」

「きみがそこまで愚かとは思わなかった。

これが罠だと何故わからない」

「あ、それはそうかも…」

「ミカエルを向かわせる。そこを動くな。携帯もこのままにしておけ。

なんとか誤魔化せ、時間を稼げよ!」


「お友達かしら」

「ああ上司だ」

「サンダルフォンかしら」

「そうかもしれない」

「上司の天使の名前も知らないの」

「ミカエルは知っている」

「もうすぐ来るの」

「そうだ」

「残念ね、お話はここで終わりよ。さよならお父さん」


「残念だな、夢の中では論理立てて筋道のある思考ができない」

警官は帽子を目深にかぶった。

「だいたい見ず知らずの警官が、

はいそうですかと仲間になるかしら」

女は七つの首の赤い龍に変貌していった。

黙示録の淫婦、七つの冠を被った大悪魔に


私は魔法陣の中央に転がされる。

警官は宝石と短剣を持っていた。

「これで16勝3敗だ」


神と悪魔の戦いは続く。

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黙示録の夢 稲富良次 @nakancp

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