第10話

 ハプリカさんと三人の少女はしっこの池で寝転がる俺に何度もお礼を言ってきた。

 俺は「お役に立てて何より。俺は阿久間真。よろしくな!」と自己紹介をし握手を求めると何故か手は握ってくれなかった。流石に恩人といえどおしっこまみれの手は握りたくないようだ。

 ハプリカさん達は帰り際、姿が見えなくなるまで俺に頭を下げ帰って行った。決闘の場には俺とアナリアだけが残された。


「お姉ちゃんが待ってます。私たちも帰りましょう」


「だな!」


 と、俺が返事をするとアナリアは持っていた箒に跨りトントンと後ろの方を叩き俺に乗るよう促してきた。

 その瞬間、いきなり俺の足元が輝き出した。不思議に思いながら足元を見ると、青い悪魔の時と同じように魔法陣が展開されていた。まさか俺も黒い炎に包まれる?

 恐怖した俺は必死に足を動かそうとしたが、まるで縫い付けられたように動かなかった。どれだけ動かそうとしても動かない足に既視感を感じた。

 なんとなく察することができた。ついにこの時が来たんだと。


「お別れみたいだな」


 アナリアは悲しそうに顔を歪めながら頷いた。


「お姉ちゃんに会ってほしかったです。自慢のお姉ちゃんなんです」


「実はもう会ってるよ。すごくいいお姉さんだ。お姉さんに伝えてくれるかな。パスワードは1111。充電が切れると使えなくなるから寝スマホに気をつけてねって。後、さようならって」


 アナリアは不思議そうにしていたが「はい」と返事してくれた。

 視界が暗転し謎の浮遊感に襲われた。謎の浮遊感に体を預けていると不意に重量を感じ俺は尻もちをついた。辺りを見回す。

 俺が消えた通学路だ。空は暗い。今何時ぐらいだろうか?

 俺は自分の家に向かって歩き出した。

 それから俺は家族と久しぶりに再会した。泣いて喜ぶ家族の顔を見ていると俺まで泣いていた。何があったのかを聞かれたが、何も覚えていないと嘘を言った。警察に事情聴取されたがそこでも異世界のことは話さなかった。火傷を負っていた俺は入院し、ほんの数日で退院をした。そしてすぐにいつも通りの日常が戻ってきた。


「結局あの魔法陣みたいのはなんだったんだろうねー」


 通学中、清水さんが間延びした声で言った。俺は首を傾げながら「さぁ」と答えた。


「急に消えちゃったから、やっぱり魔法だったのかな?」


「どうだろう?」


「本当は記憶あるんでしょ?教えてよー」


 と清水さんは子供の駄々こねのように俺のスクールバックを掴んで揺さぶった。

 その瞬間、また俺の足元が輝き出した。


「きゃー!またー!?」


 と清水さん叫びながら俺から距離をとった。

 そんな清水さんとは対照的に俺は冷静だった。どうせ足とかも動かないし無抵抗のまま魔法陣の上でボケッとした。視界が暗転し謎の浮遊感に襲われ、そしていつも通り尻もちをついた。


「あ、あれ?悪魔神様?おかしいです。下級悪魔を召喚するはずだったのに」


 薄暗い地下室の中、アナリアが大きな本を持って立っていた。

 まるで俺が下級悪魔と同等みたいにいうじゃないか。自信を持って言うが俺は下級悪魔より断然下だ。なんの取り柄もない親に甘えて生きているだけのただの男子校生だ。


「やぁ、数日ぶりだねアナリア」


「また会えて嬉しいです」


 俺とアナリアが再会の挨拶をしていたその時、上の階から「アナリアーご飯できたよー」と声がした。声の主は地下室の扉を開き、軋む階段をおりてきた。


「もーご飯冷めちゃうよ」


 といいながら声の主は顔を覗かせた。輝く長い金髪に魅惑的はプロポーション。すぐにソフィンさんの娘のローネだと分かった。

 ローネは俺を見るなりハッと口元に手を当てた。その瞳は微かに潤んでいるようなそうでもないような。


「どうも、お邪魔してます」


 妙に照れくさくて思わず敬語になっていた。


「今、ご飯ができたばかりだから、よかったら食べていって」


 色々話もしたいしお言葉に甘えるとしますかね。

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阿久間君、悪魔召喚されてしまう わかめこんぶ @wakamekonbu

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