不可逆の理と山姫の呪い

“いずこの地の果てかは定かでないが、ある山奥の洞穴に「眠らずの山姫」と呼ばれる妖異がいた。この山姫は眠ることができない呪いにかけられており、その苦しみに夜となく、昼となく、声をあげて泣きむせぶので、この名がついたのであった。”

 におい立つような語り口から始まる冒頭。まるで雲海から舞台となる山や村を望むようで。
 語り部を前にして「さあ、これからどんなお話をしてくれるのだろう?」と楽しみに、同時に神妙な心持ちになって聴き入りたくなります。


 山姫は「ウタベ」として差し出された少年・東風彦(あゆひこ)に不老の呪いをかけ、永遠に若く美しい歌声を望みます。
 代わりに山姫が保護者として、東風彦は何不自由ない生活を送っていました。しかし、あらすじで述べられている通りその呪いは綻びを見せます。
 東風彦の呪いを乱したのは何なのか。その心境は。

 本来ならば肉体の成長も心の成長も不可逆のものです。
 その理(ことわり)を捻じ曲げてまで山姫は子守歌の安らぎを求めます。彼女自身を苛む「呪い」は果たして何なのか。

 物語の中では敢えて“すべて”が語られることはありません。しかし、考えずにはいられません。
 自身が「大人になってしまった」不可逆性を実感した時の心境。
 呪いに苦しみ続ける山姫へのまなざし。

 短めのお話ですが、読後にはしっかりと余韻を刻む。語り部のあたたかな声色が聴こえてくるような作品です。