風船

三夏ふみ

風船

 私は、風船をよく見る。


 ある朝、事故を目撃した。右折車が、横断歩道の女の子をはねた。

 駆け寄る母親、辺りは騒然となった。人集りが出来る中、母親は我が子を抱きかかえ、空を仰ぎ見て何かを叫んでいる。


「誰か、風船を捕まえて!」

 

 風船?

 その時、視界の端を何かが横切った。無意識に伸ばした手の中に、風船を握っている。

「あの、これ」

 群衆を掻き分け、握った風船を母親の前に差し出す。

「あぁ」

 声にならない声を上げ、涙を流し風船を受け取る母親。

「良かった」

 小さく呟き、娘を強く抱きしめる。

 程なくして到着した救急車に乗り、女の子は病院に運ばれて行った。風船を握りしめたままの、母親と共に。


 あれから私は、風船をよく見る。

 今日も色とりどりの風船が、空高く上がって行く。

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風船 三夏ふみ @BUNZI

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