ドラゴン、人食いクラゲ、ゴブリン、ガーゴイル、魔の森などなど。
そんな魔物が住む、魔法ありきのファンタジー世界だけど、起こっている事件はどこかこの現実世界に通じているようで、遠い彼方の出来事なのに身近に感じてしまう。そんな感覚を味わせてくれます。
また明確な主人公はおらず、各物語にいる語り部(あるいは話の主役)がおおよそ特別な力を持った英雄でないところも親近感を加速させてくれます。
上遠野浩平先生の「事件シリーズ」を彷彿させるファンタジー世界での作り込みに、まさにホームズやコロンボが活躍しそうな事件の数々。
また火災や自然破壊への警鐘、戦争への警句など、考えさせられる事案も盛り込まれ、
しかもそれが1話完結でしっかりまとまって終わるのだから、読みやすさも読み応えも抜群。
普通のミステリ以外の作品を読みたい、という人にオススメです。
ファンタジーでありながら怪奇。この独特な手触り、とても癖になります。
一般的にファンタジーの世界っていうと、「魔法の体系」とか「そこを統べる神や魔王」みたいな存在が明示されていて、あまり「未知」な要素というのが存在しないのが普通ですね。
現実世界よりも不思議なことがいっぱいあるはずなのに、逆に「その世界にとって理解できないもの」は登場しない。
これって良く考えると不思議だな、と思わされます。
本作は、そんな「異世界の住人にとっての未知な出来事」というものを扱った作品集となっています。
「立ち寄った村人たちが姿を消してしまう村」
「とある本の管理を巡って発生した、重大な火災事件」
「薄気味悪い怪物たちが大量発生した記録」
どの作品も、異世界に生きる人々の息遣いが鮮明に伝わってくるようで、ファンタジーな彼らの存在が、「現実」に生きる自分たちと何も変わらないことを教えてくれます。
そうしてファンタジーな世界観だからこそ起こる「更なる未知」な出来事。不気味なものやゾッとするもの、ハラハラするもの。
怪奇小説的なテイストを持つものや、新聞記事の第一面に載りそうなもの。そして「トワイライトゾーン」などのエピソードを彷彿とさせられるような事件。
それぞれ異なる味わいを持ち、更にどれがも読み応えがあります。
今までとは違った「異世界」の味を楽しむことができる、とても完成度の高い作品集です。
魔法や怪物が存在する異世界で起きた事件や事故について、ドキュメンタリー風に紹介していくという、斬新な切り口の短編連作です。
とにかくリアリティがすごい!
舞台となる文化土壌は異世界なのですが、我々の生きる現実世界にも通じるような因習や人災が描かれています。
なぜ事件や事故は起きたのか。
どんなところに原因があり、どうしたら防ぐことができたのか。
悲劇から教訓を得て、再発防止策を講じる。
そうした一連の流れに納得感があり、読み応えがあります。
異世界に生きる人々の歴史や文化、社会の営みを感じられる作品です。ぜひご一読ください!