暗がりの中の君へ
夕砂
暗がりの中の君へ
君は、今日も洞穴から出てこない。
名前を呼んでも、返事はない。
「大丈夫だよ、外の世界は安全だよ。」って言っても、ただ風の音が返ってくるだけ。
私は、入り口の石に腰かけて、空を見上げる。
今日は雲がやさしく流れているよ。
昨日はね、小さな鳥がこの前を横切っていったんだ。
君にも見せたかったな。
陽の暖かさと、風の声。
君のいる場所にも、ちゃんと届いてる?
最初は、心配だった。
眠ってるのかも、泣いているのかもって。
でもある日、君が小さく咳払いしたのを聞いて、安心した。
君は、ちゃんとそこにいる。
それだけで十分だったんだ。
いつか外に出たくなったらでいいよ。
無理にじゃなくて、ふと歩きたくなった、そのときでいい。
その日まで、私はここにいる。
何も求めない、急かすこともない、ただそばにいる。
洞穴の奥が、君にとって少しでもやさしい場所でありますように。
そこにいる君が、少しでも、安心して眠れますように。
そして、もしもその扉の向こう側に出てくる日が来たら──
また一緒に、笑おうね。
同じ空の下で、同じ風を感じながら。
私はそれを、ただ楽しみに待ってる。
今日も、小さな声で、君の名前を呼びながら。
暗がりの中の君へ 夕砂 @yzn123
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