エピローグ 夕暮れの工房にて
夕暮れ時、薄いオレンジの光がエドの工房を照らしていた。棚にはよくわからない歯車のかたまりや半分しか完成していないらしい発明品が並び、天井から吊るされたランプがカチャリと揺れる。
今日も子どもたちが来て、エドの愉快な「冒険談」をせがんでいった。パラレルワールドに行った話、ドラゴンに追いかけられた話、モグリたちと食事を囲んだ話……。
「ほんと、よく話すよね、エドは」
椅子に足をぶら下げながらアイラが言う。
「話さないと忘れちゃうだろう? 記憶って不思議と風船みたいに、ふわふわと遠くへ行っちゃうからさ」
エドは紅茶を注ぎながら答えた。器の縁には焦げた跡があり、それは過去の失敗作が爆発した名残だった。
「忘れるのがこわいの?」
「うーん、そういうわけでもないけど……」
エドは少しだけ笑って、カップを両手で包み込むように持った。「あの世界も、この世界も、全部ちゃんとあったんだって証明できたらいいなって思ってるだけさ」
「証明ねぇ。どうせ“インチキ発明家”の与太話って思われてるよ」
アイラは肩をすくめた。
「それでも、僕にとっては全部、ほんとのことだよ。アイラにとっても、そうだろ?」
アイラはしばらく黙っていた。窓の外には工場の煙突が見える。魔力をつかった熱エネルギーが空に昇っていく。その景色に馴染んでしまった自分に、ふと寂しさを感じる。
「……そうだね。私にとっても、本当のことだよ」
やがて、アイラはゆっくりと笑った。
工房の奥では、古ぼけた金属製の機械が、また不気味な音を立て始めていた。前に暴走した、あのタイムスリップ装置だ。
「おや? もしかして……また冒険の時間かな?」
「やめて、今度はしっかり点検してからにしてよ」
そう言いながらも、アイラはどこか楽しそうだった。
工房の扉が、コンコン、と誰かに叩かれる音がする。
「エド兄ちゃん! 今日も冒険の話してーっ!」
外から元気な声が飛び込んできた。
「ほら、ファンが待ってるよ」
「よし、じゃあ今日は“時計の国”の話でもしようか。なんせ昨日、ちょっとだけ行ったからね!」
「それ絶対うそでしょ」
二人の笑い声が、夕暮れの工房に響く。冒険は、いつだって、ここから始まるのだ。
ガラクタだって夢を見る ~魔法世界の落ちこぼれ工房より~ 風葉 @flyaway00
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