忘れたほうが幸せなこともある

@159roman

忘れたほうが幸せなこともある

 ある日お庭ですっ転んで頭を打った衝撃で前世の記憶を思い出した。


 いやマジで何言ってるんだろうと自分で自分にツッコミを入れて、

ベタだけどほっぺたをつねってみる。


 「痛い」


 夢を疑ってみたけれど、まごうことなき現実だった。


 ショック。

 

 テンプレ異世界転生に思わずorzのポーズをしてしまう。


 ふわふわでサラサラの金髪、パッチリ二重の空色の瞳。

外見だけなら大勝利! 美少女に生まれ変わってラッキー!

と歓喜に打ち震えたいところだが現実はそうもいかない。


 この世界、すごく不便なのですわぁあああああ


 前世を思い出すまでは気にならなかったのに、

思い出してしまってはどうしても便利な暮らしと比べてしまう。

 

 生活の基盤の電気、ガス、水道が整っていない。

 不便すぎる。


 幸い私が生まれたのは下級とはいえ貴族家なので、

 使用人が諸々やってくれるけど、


 それでも

 

 「不便」


 夜は真っ暗、蠟燭の明かり。

 水は井戸。

 竈に薪で料理する。

 お湯を沸かすだけでも一苦労。

 使用人さんたちありがとう。

 せめてもの感謝でお礼を言うようにしている。


 そしてこの世界、娯楽が少ない。

 非常につまらない。


 食べ物もいまいち合わない。


 せめて魔法がある世界ならもっと楽しめたかもしれないのに。


 あと水洗トイレが欲しい。切実に。


 こうして6歳にして前世を思い出した私は、

お気楽一人暮らしアラサーの記憶に引っ張られ現世になじめず。


 眉間にしわの寄ったニヒルな美少女となりました。




 この世界では7歳になると教会で洗礼的なものを受けて、

運が良ければ神様からスキルを授かるそうだ。



 そして7歳になった私は教会にて脳内に響く神様の声を聞いていた。



 「地球からの転生者さん、ようこそ。あなたにスキルを授けましょう」


 スキルがあればそれを生かしてより良い人生が送れるから、

どんなスキルがいいか選ぶようにとの神様の言葉に私が答えたのは……




   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「あの子、無邪気な笑顔で帰っていったなぁ」


 先ほどスキルを授けるために会話した子供は異世界からの転生者さん。

 時々いる地球からの転生者さんは、この世界になじむのが大変なようで、もう何度も与えたスキル。



 『忘却』



 みなさんスキルを使って前世を忘れ、この世界の住人として元気に生きているようです。



 めでたし。



 わたしとしては前世の記憶を持ったまま、その知識でこの世界に新しい風を吹かせてほしいのですがねぇ。


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