おじいちゃんの部屋から異世界に⁉︎ 〜僕の異世界冒険録〜

@h-ar-u

第1話 十界シリーズ

 本を読むと、まるでその本の世界の住人のような気分になる。その世界に行った気分になる。

 没頭して本を読むと、そのような気分になることもあるだろう。その現象はとても心地良く、気分が良いものだ。

 もしも願いが叶うなら、本当にその世界に行ってみたい。

 誰もが1度は憧れるあの世界に。




 2222年、2月22日。

 僕のおじいちゃんが死んだ。

今は少しずつおじいちゃんの部屋の遺品整理をしている。おじいちゃんの部屋は物が多いんだ。

 だから片付け1つとっても一苦労。まだまだ時間がかかりそうだ。

 おじいちゃんはとても有名な小説家だった。

生きている間はジャンル問わず様々な作品を世に出し続け、生きる伝説と呼ばれた。

まぁ、死んだ今ではただの伝説に格下げ?されてしまったが…。

 そして、何より読書家で、部屋には一生かけても、とても読めきれないであろう量の本がある。これは数々の賞を取ってきたおじいちゃんの中でも1番の自慢だった。

 そんなおじいちゃんが書く本の特徴は、何よりも登場する世界のリアリティさだろう。フィクションの作品を書く人だったが、まるでその世界の住人であったかのように、国の特色や伝統的な食べ物など、妙にリアリティのある小説を書き、世間はこれに魅力された。当の僕もそれに魅了された1人だ。

 しかし、そんな僕でも1番好きな本はおじいちゃんの本ではない。

 それは十界シリーズと呼ばれる10冊の本で、本屋さんやたくさんの本がある図書館でも見たことがなく、おじいちゃんの本棚でしか見たことがない不思議な本。僕はこのシリーズでそれぞれ書かれている物語が大好きだ。冒険に出かける冒険ものや、事件を解決する推理ものなどがある。どの話も登場人物やその話の舞台の国が違うのに、物語の中でその国の特色などが出てきてとても面白い。

 また、この10冊の本は同じ世界線で書かれており、シリーズに出てくる国同士が協力して難事件を解決することもある。まるでその世界が本当にあるみたいだ。

 そういえばおじいちゃんも十界シリーズをよくあの部屋で読んでいたっけ…。

実は、部屋には入り口とは別に大きな扉がある。そしておじいちゃんはその扉の先の部屋の出入りを僕達家族には禁止していた。

最初は新作の案などがあるなどと憶測を立てていた僕達だったが、今回は仕方なく、遺品整理のために部屋に入ったがとても驚いた。

 なんと部屋の中には椅子の1つも無かったのだ。片付けの手間が省けたため、物が多いおじいちゃんだけにあの時は助かったが、今となっては不思議なだけだ。

おじいちゃんは一体そこで何をやっていたんだろう。小説を立ち読み?コンビニでもないのに…。(コンビニでの立ち読みも良くない)。

 ふと気になった僕は、おじいちゃんの考えに近づきたいという思いから、十界シリーズのうちの1冊。第一界『冒険国家オーベラ』を持って部屋の扉を開けた。

すると、

「これは何だ!? あの時はそんなこと起こらなかったのに!」

片付けの時には起こらなかった謎の光が僕を包み込む。

思わず眩しさで目を瞑ってしまった僕だったが、次に目を開けると…


「えっ!」

そこには城があり、街がある。

明らかに僕たちの住む世界とは異なる。

「これじゃあ、この本の世界みたいじゃないか」

そうなのだ。強いて言うなら、今手に持っている本、第一界『冒険国家オーベラ』の世界と特徴が似ている。

 オーベラの特徴はなんと言っても、広大な土地に広がるお店と馬などの動物の数の多さだ。

そしてそれは、この国が本のタイトル通り、世界の土地を開拓するための役割を持つ国だからだ。そのため、外国の製品もこの国で数多く売っている。


 だが、なぜ僕はその世界にいるんだ?

本当にここはオーベラなのか?

おじいちゃんの部屋にあった扉の影響か?


 そんなことを考えていると、今自分が立っている場所に気づく。そこは公園のような広場で、僕の立っている後ろには大きなゲートのようながあった。

やはりそうだ。

僕はこのゲートを通じてこの世界に来たのだろう。

その証拠に、試しにもう一回その扉を潜るとおじいちゃんの部屋に戻ることができた。

 だが、せっかく本の中の世界に行けたのだ。

じっくり堪能するとしよう。

と、したいところだったが思わぬハプニング。


 散策しようと思い、オーベラに戻ってきた時には人だかりができており、おまけに国の警備係らしき人たちも様子を見に来ていた。

 あれ…僕ヤバいか…。


「何者だ!」

「その扉の前で何をやっている!」

街の住人からの通報で駆けつけていた警備係の人らに問い詰められた。

「あっ…えっと…」

 扉からこの世界に来た僕だったが、ほとんど仕組みは理解していない。

「僕は違う世界から、この世界に…」

と、自分でも訳がわからない言い訳をしいたら…


「もしかしてシゲル様のご家族ですか?」

1人の老人がやって来て、そう言った。

「えっ…滋(シゲル)?僕は尾仁間或斗(オニマ・アルト)と言います。シゲルは僕の祖父の名ですが…」

「シゲル様のお孫さんでしたか。ようこそお越しくださいました。」

どうやら祖父を知っているらしい老人は外部の僕を怪しむことなく、歓迎してくれた。


「えっ!エリック様こいつをご存知なのすか?」

「彼を見るのは初めてだが、シゲル様のお孫さんなら、心配ない。」

「なんたって、この方はあの小説家鬼丸シゲのお孫さんなのだぞ」

「え〜!」

老騎士がそう言うと、そこにいた皆が驚いた。


 鬼丸シゲは僕のおじいちゃんが小説を書く時に使っていたペンネームだ。

 だが、なぜその名前を知っているんだ?

「シゲル様は十数年前までこの国に訪れていたんです。そして、小説家だった彼は私たちの国にもたくさんの物語を残してくださりました。シゲル様の小説はこの国でも大人気なのです。」

「特にこの国で生まれた子供、今の魔導隊のメンバーなどからすると知らない人はいないでしょう。」

 まさかそんなことがあったとは。

僕の世界でも小説家として大人気だったおじいちゃんがこの国でも名を馳せていたとは。

経緯は謎だが、今はおじいちゃんの功績に感謝だな。


「城に案内いたしましょうか?」

「城?」

何のことが分からず、思わず聞き返した。

「はい。この国の王がいる城でございます」

「城に?いやいや僕は貴族でもなんでもないんですよ?」

「王様もシゲル様の本が大好きでしたからねえ。きっと喜ぶでしょう」

「いや、それでも王様に会うなんて…」

「この国に訪れたのは初めてでしょう。きっと気になる情報も聞けると思いますし」

 王様に会うことに若干億劫気味の僕だったが、とりあえずはこの老人に従ってみることにした。


「よくぞ来てくれた!シゲル殿のお孫さん!」

城に案内された僕に会った早々、王様はハイテンションにそう言った。

警備の人に怪しまれて困っていた僕からすれば、この展開はとてもありがたいが王様としてはどうなのだろう…

少し不用心だと思いつつも、挨拶する。

「はじめまして、シゲルの孫の尾仁間アルトと申します」

「第一界冒険王国オーベラの国王、ウィルター・スタンドだ」

「今日は来てくれてありがとう、シゲル殿の本は小さい頃から大好きだったから君に会えてとても嬉しいよ」

「こちらこそです」

「どうやら、モーセを通ってこの世界に来たらしいがどうやって来たんだ?」

「もしかしてシゲル殿も一緒か?」

少し気まずい質問だ…

でも、ここは正直に伝えよう。

「祖父は先日亡くなったんです。」

「今日はその遺品整理をしてる途中にこの世界に来てしまって…」

「そうであったのか…この世界でも人気で慕われていた人だったからとても悲しいなぁ」

 この世界でも死を惜しまれる祖父の凄さに改めて気づくと同時に、一つの疑問が浮き上がってくる。

 なぜこの世界のことを祖父は秘密にしていたんだ?

「しかし、シゲル殿も初めてここに来た時から迷い込んだ理由は分からないとおっしゃていたし、なぜそなた達はこの世界に来れるのかのう?」

「モーセの起動にはポテレ族の力が必要ですしね。」

ここまで案内してくれた老人が言った。

「そういえば申し遅れましたな。この国で新人魔導士の育成をしているエリック・ロイツだ」

「エリック殿はわしが子供の頃から魔導隊に在籍していてな、その当時は魔導隊の隊長を務めていたお方だ」

そんなすごい人だったとは。

というかそれぐらいの人でなければ、怪しげだった僕をここまで連れて来れるわけないか。

「そなたの年齢は?」

「17歳です」

「王の娘様と同い年ですね」

「そうだな」

王は何か含みのある言い方で言った。

 僕は一体何されるんだ…とても怖い。

「アルト殿、この世界へ来れた理由解明のためにも魔導隊入隊試験を受けてみないか?」

 とても驚きの提案だった。

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